痛みが救いである間に
ぶっちゃければ、それはただの無茶でしかなかった。
ドッグに寄ればこんな計画性のない無茶でももう少しマシな物になっただろうが、そんな時間の余裕はもうない。
一秒止まるという選択さえアメリアには選べなかった。
更に言えばアメリアは技師でも何でもなく、元はただの学生で今は農家。
当然、船の改良なんて真っ当に出来る訳がない。
だからまあ……見てくれは、はっきり言って不格好だった。
美しい木製の船であった海賊船は名残さえもなくなり、今やただの細長い円柱の筒。
一応航空宇宙力学に乗っ取り設計されているが、学生の浅知恵である事は否定出来ない。
この形状を最も簡単に例えるなら、ペットボトルロケットとなるだろう。
シンプルな筒に色々ついただけの、雑で適当な姿。
ロケットっぽいと呼ぶ事さえも烏滸がましく感じる程に。
ただし……中身の方は限界まで無茶をしている為違う方向性でめちゃくちゃである。
アメリアが行った事『自体』はわかりやすい。
海賊船を百八十度反転させ、前と後ろを入れ替える。
テイカーの小型船をそっくりそのままバーニアに転換改造する。
そして後方に来た主砲の中にそれをそのまま突っ込んで、主砲の動力をエネルギーにして臨界ギリギリで使用する。
ただそれだけ。
その改造内容も、走りながらの改造も、改造後の運用も、全ての方面が限りない無茶。
最悪の場合爆発しただろう。
いや、ルビィの驚く程細かいパラメーター調整がなければ追加バーニア起動の段階で五度は爆発している。
ほんの一パーセント、ほんの一ミリの差で爆発する様な、そんな繊細なバーニアは爆弾と呼ぶ方が適切だろう。
それでも、成果はあった。
改修運用後からおよそ一時間。
僅かずつではあるものの、確かに船との距離は詰まっていた。
「……相手艦停止確認っす! これは……」
ガーネットが叫ぶと、テイカーは即座に位置情報をサーチする。
「食料系のサービスステーションだな。……普通なら軍艦で寄り道なんて考えられないけど、ピタス共の事だ。面白そうだから立ち寄ったんだろう」
「だが、追うこちらから言えばありがたい話だ」
ジャックの言葉にアメリアは頷く。
そう……相手が止まってくれたなら、追いつける可能性は増える。
だけどそれでも、一パーセント未満だった追いつく可能性が、三パーセント位まで増えた程度の事。
それだけ無茶をやっても、相手が止まっても、その程度しか追いつける可能性は湧いていなかった。
救える可能性は、今尚たったの数パーセント。
アメリアの中にどろっとした濁った感情が流れる。
粘っこくて、冷たくて、ただただ恐ろしい感情。
だけど今だけは、その感情を必死に押し殺す。
確かに可能性は低い。
だけど、諦めたらその僅かさえもなくなってしまう。
押しつぶされようになる不安を殺しながら、アメリアはただ全力で、船を前に進めた。
あれからどの位時間が経っただろうか。
痛みに堪えながら、ヴォルフはふとそんな疑問を持つ。
この白い部屋では、時間の感覚が完全に失われる。
清潔な為の白い部屋だと思ったけれど、たぶんそうじゃない。
この何もない白だけの部屋。
壁と天井と床の区別もつかず、狭い部屋なのか広い部屋なのかもわからない。
そんな場所に一切話しかけられずただ独りいるとおかしくなりそうになる。
間違いなく、これは拷問である。
内蔵がズタボロで、両手は手枷が血が出る程きつく縛られ。
その痛みが、心地よいとさえ感じてしまっている。
どうにかしなければという焦燥感が不安を苛み、未知なる恐怖へと変化して。
痛みがなけれればとうに自分が何なのかさえ忘れていただろう。
だからこそ、思うのだ。
一体、どの位時間が経ったのだろうかと……。
これが何十時間、何日かであったのならまだ良い。
だけどもし……もし、実際の時間が一時間とかそれ以下だったら、自分の気は確実に狂うと断言出来た。
体感で言えば既に十日程経っているが、そんな事はあり得ない。
一度もトイレに催す事もなければ空腹も訴えていない状況でそんなに時間が経っている訳がない。
だからこそ、恐ろしいのだ。
あとどの位、この苦しみに耐えれば良いのか……。
そんな時だった。
ヴォルフの体が浮き、手錠が食い込む程部屋が大きく揺れたのは。
ありがとうございました。




