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我儘令嬢と飼い犬執事  作者: あらまき
7-ずっと昔の大切な約束(後編)

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父でも為政者でもなく、中途半端にしか

 この海賊船はヴォルフを助けに飛び出した。

 それに違いはなく、その目的に迷いはない。


 だけど、どこに行けば良いのかかわかっている訳ではなかった。

 過程は存在せず、まるで羅針盤のない旅路の様に。


 ぶっちゃけて言えば、いてもたってもいられずにただ飛び出しただけでしかなかった。


 だけどここに来て、ようやく目指すべき方針、目的までの過程が見つかった。

 過程というよりも、通信先というべきだが。


 レーヴェル侯爵へのダイレクト通信。

 それは彼女達にとって唯一の、そして最後の希望の糸だった。




 仕事の、それも難しい相手との顔合わせでの会議中に、その連絡はかかってきた。

「後にして下さい」

 秘書に対し、サーザントはそうとだけ告げる。


 相手は他領の領主。

 自分よりも低い地位とは言え互いに領主であり、しかも経済力はほぼ対等。

 その上で相手は自分に対しあまり良い感情を抱いていない。


 その状況で離れる事なんてサーザントに出来る訳が……。


「ですが……泣きそうな程真剣な声で……」

 秘書は普段感情を殺し仕事に徹する。

 サーザントの様に。

 その秘書が、ここまで言う状況。

 本当に緊急の状況であると、サーザントは理解出来た。


 秘書の不安が移ったのだろう。

 サーザントも商談に集中できない位不安になってきた。

 娘に何かあったと……。


「すいません。この場を離れます」

 それは事実上のギブアップ。

 関係性を築く交渉を全て諦め、お互いの交流をこれまで通りなしにしようという言葉と対等である。

 だけど……。


「構いません。待ちましょう」

 これまでとは違い柔和な笑みで、伯爵はそう言葉にした。

「……え?」

「ほら、お急ぎなのでしょう。お子さんを待たせたら駄目ですよ」

 そうにこやかな顔で言いながら、伯爵はサーザントを追い払う。


 そして席に座り直した。

 何てことはない。

 感情の見えない化物と娘思いの父親、どちらと仲良くしたいかというだけの話であった。

 らしくもない親馬鹿な仕草を見て、伯爵は随分と楽しそうに笑っていた。




『代わりました』

 サーザントの声が聞こえ、アメリアは叫ぶ様に声を荒げた。

「パパ、助けて! 一生のお願い。あの、あの……」

『……ヴォルフの居場所データを送れば良いのですか?』

 その通信に、海賊船に乗り合わせた全員が衝撃を受けた。

「パパ、どうして……何か知ってるの!?」

『いいえ何も。事情さえわかりません。ですが、アメリアが必死な時はいつも誰かの為ですから。それで、彼と随分離れた場所に居る様なので彼に何かあったのかと』

「……パパ……」

『一生のお願いでなくても構いません。とりあえずデータはそちらの船に転送しておきましたから、事情を説明してください』



 サーザントはどうしてヴォルフの位置情報を知っているのかつっこまれるかと思った。

 そしてどう誤魔化そうかとも。

 だけど、彼女達は気付くそぶりさえも見せなかった。

 そんな些事に気にかけている余裕などある訳がなかった。


 アメリアから簡単に状況を聞き、サーザントは頭を悩ませる。

 ヴォルフがピタスに捕まった事。

 そして帰って来ない事。


 それに加えてヴォルフの位置情報で言えば、状況は最悪に等しい。

 ヴォルフを示す座標の移動速度が、あり得ない程に速かった。


 良くて高速小型船の改良版。

 だが、その可能性は限りなく低い。

 拉致した相手が王族であるのなら、小型に乗る事などあり得ないからだ。


 だったら、もっと最悪である。

 高速小型船よりも速度が出る乗り物なんてのは軍用艦位であり、そして軍用艦に乗るピタス王族なんてのは、サーザントの知る限りただ独りしかいない。


『鮮血のブリュンヒルデ』

 ピタス王朝にて最過激派であり最タカ派。

 彼女は既に半ば形骸化しているスラヴ・サーヴァントに対しての初代の妄執を引き継いでいる。

 その存在を利用する道具ではなく、憎むべき敵として――。


 スラヴ・サーヴァントに対してここまで強烈なのはタカ派が多いピタスの軍関係者でも一割を切る。

 その一割に、丁度ヴォルフはひっかかってしまった。


 他のピタスだったら、他種族の星域にて真っ当に生きているピタスだと聞けば二の足を踏む。

 ぶっちゃけ見なかった事にする。

 三種族全ての中で、未だに統一前に起きた『戦争』は恐ろしい物だったと語り継がれている。

 何度も国を割り王を変えて来たピタスでさえも、他種族には決して手を出さない。


 だからまあ、本当に運が悪いとしか言いようがなかった。


 あちらの身分は第三王女で、追いつく事が出来ない高速戦艦。

 奴隷肯定派どころか最過激派で今この瞬間に処刑されていてもおかしくない。

 その上で……これは国際問題の話。


 つまり……。


『父親ならば、アメリアを助けるべきなのだろう。だけど……私はこれ以上、助力出来ません』

 それは、サーザントの限界であった。

 実の事を言えば、奪還に望むアメリアの邪魔をせず、通報しないだけでも侯爵としての自分を相当誤魔化している。


 父親であるならば、ヴォルフを助ける為娘に協力すべきだ。

 ヴォルフの事を家族と思い友と思い、慕っているのだからそれは人としても正しい選択である。

 だけどそれは許されない。

 サーザントの肩には、無数の惑星が背負われている。

 たった一度の失敗で、比喩ではなく天文的な犠牲を生む事もあり得た。


 ヴォルフ一人の為に民を巻き込む程、彼は悪を選べなかった。


 かと言って侯爵として娘に『ヴォルフを諦めろなんて』とても言えない。

 公平を是とする自分の方針としても、単なる犠牲者であるヴォルフを見捨てたくはない。


 侯爵であり、父であり、友であり、そして為政者である。

 だからこその、妥協点。

『娘から連絡を受けなかった事にする』

 それが彼の限界だった。


 そして……。

「もし何かあったら……アメリア、君をレーヴェル家から追い出しいなかった事にする。これは譲れない一線だ」

「うん。大丈夫。覚悟してる」

「……そうか。だけど逆に、もしも無事に救えたら、連絡を入れなさい。私では彼を助ける事が出来ない。けれど、二度目を止める事なら……それならば、私の仕事となるからね」

 それだけ言い残し、サーザントは通信を切った。

ありがとうございました。

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