勘違い
完全に寝落ちし変な恰好となっているジャック。
肩を寄せ合い、イライラした様子で浅い眠りのルビィとガーネット。
そして、ただただ不安で一晩中眠れなかったアメリア。
その日の朝は前日の楽しさが嘘の様な、酷い有様だった。
ルビィとガーネットは眠りながらもずっと眉間にしわを寄せている。
腹の中では何もかもが煮えくり返りそうな程怒っていた。
誕生日云々ではない。
アメリアをここまで心配させた事にである。
帰れないなら何か連絡の一つでも居れたら良い。
別に自分が無理でも誰かに頼むなり出来ただろうに。
いつでも動ける様に、いつでもぶん殴れる様に。
彼女達は静かに、まるでハンターかの様に浅く眠っていた。
料理には誰も手をつけなかった。
誰も、食欲が湧かなかった。
ケーキはクリームが溶けてぐちゃぐちゃで捨てた。
皆の心が荒んでいく。
そんな時間に、外から音が。
誰よりも早く、アメリアは飛び出していった。
アメリアに怒りはない。
謝罪もいらない。
ただ、無事に戻ってくれたらそれで……。
そんなアメリアの願いもむなしく、降りて来た宇宙船は一人用の物で、そして出て来たのはテイカーだけだった。
「おい! あいつ戻ってないか!?」
それは、アメリアが初めて聞いたテイカーの生の声だった。
相変わらず分厚いガラスで顔は見えないが、変声機を使うのも忘れアメリアが女である事を忘れる位に、テイカーもテンパっている様だった。
アメリアは首を横に振った後家の方に、恐らく気づいている彼女達に来るなというハンドサインを出す。
女嫌いのテイカーにとってルビィとガーネットは天敵そのものであった。
多少慣れたアメリアでさえも未だに距離が空いているのだから、彼女達と一緒になれば大変な事になる。
というか実際大変な事になった事がある。
「……ちっ! 駄目だったか……」
心配というよりもイライラとした様子でテイカーは吐き捨てた。
「ね、ねぇ。何があったの? ヴォルフは無事なの?」
テイカーはイライラを隠そうともせずに後頭部を掻こうとして……つるつるとした金属の感触を受けて小さく舌打ちをした。
「ああ。たぶんな」
「たぶんって……一体何があったの?」
「あの馬鹿がお節介をして、んで……まあ、色々と」
「その色々が知りたいんだけど……」
「俺だって良くわからん。だけど問題ないだろ。これまでもそうだったんだから」
「これまでも?」
「ああ。あいつらだよ。ピタスのお偉いさんども。お前も話位は知ってるだろ? 気に入った奴を拉致ってちょくちょく問題になってる奴」
三大種族の一つ、ピタス。
通称自由の民。
彼らは言葉通り本当にフリーダムで……大体年に一度程の割合で拉致事件を起こす。
しかも、気に入ったからという理由だけで。
だけど、それで大きな問題になった事は一度もない。
ピタスは自由であっても馬鹿ではない。
他種族を殺し再び戦争をするような愚かな考えには絶対に及ばない
彼らにとっては拉致というより、『遊びにおいで』なんて感じのお迎え程度の感覚であった。
ピタスは拉致をする。
だけど、人間は絶対に傷つけない。
だから……テイカーは大丈夫だろうと気軽に口にする。
内情はともかく、歴史的にはそれが正しいから。
それは、知っているか知らないかの差。
知らないから、テイカーはイライラと好き勝手な王族の我儘に腹を立てている。
だけど、知っているアメリアは違う。
アメリアの顔色は真っ青を通り越し、今にも吐きそうな土気色となっていた。
彼らピタスは拉致した相手を絶対に害さない。
そんな事はアメリアだって知っている。
そう……彼らは決して殺さないのだ。
戦争の火種となる、他種族だけは――。
酷い顔色のアメリアを見て、テイカーも遅れながらに己の勘違いと最悪のやらかしに気が付いた。
ありがとうございました。




