七日程の主離れ
「それじゃあ、行ってきますね」
そう言葉にするヴォルフはどこか心配そうにアメリアを見続けてる。
大丈夫だとアメリアは口にするし、ヴォルフも今のアメリアなら一人で暮らす事位訳がないとわかってはいる。
それでも、これまでがこれまでである。
やはり傍を離れるのはどこか不安があった。
「心配し過ぎ。……大丈夫よ、本当に。もう前までの私じゃないわ」
その前に戻って欲しいヴォルフとしては、その言葉に同意も否定も出来なかった。
「わかってます……。でも……」
「それにまあ、私がどうであっても行かないといけないわけだし……ね?」
「まあ……そうなのですが……」
「だったら気にせず楽しんで来てよ。あ、出来たらお土産は買って来てね」
「それはもちろんです。……いえ、そうですね。ぐちぐちいうのも失礼でしかありませんね。では、行ってきます」
「はい。いってらっしゃい」
そう言ってアメリアは手を振り、迎えに来た『観光バス型宇宙船』に乗り込むヴォルフを見送った。
その観光用の惑星を巡回する二階建てのバスは丸っこくてちょっとお洒落で可愛い。
正直アメリアはちょっと、いや大分乗りたかったけど、流石にそこまで我儘には戻れなかった。
そっと言葉を飲み込んで出発まで手を振って……そしてバスが飛び立ちいなくなってから、気持ちを切り替える。
「……さて、それじゃあ……やりましょうか!」
そう元気良くアメリアが声を出すと――隠れていたジャック、ルビィ、ガーネットがどこからともなく現れる。
そして一同揃って、ニヤリと悪だくみをする様な表情をしていた。
「くっく。お前もやるじゃねぇか。ああ、俺を呼んだのは正解だぜ」
ジャックはいつもの様に意味深な笑みを浮かべた。
「そうっす! サプライズパーティーと言えば兄貴! 兄貴と言えば楽しませる天才! アメリアちゃんは頼もしい仲間を味方にしたも同然っす!」
「そうっすよ! 兄貴は誰よりもパーティーを楽しむからこんなに喜んで貰えるならやって良かったっていつも思われるタイプっす! はしゃぎすぎが玉に瑕っすけそそれもまた可愛い所っす!」
「くっく……あんまり褒めるなよ恥ずかしくて顔が出せなくなるだろ。まあ俺の事は良い。……やるんだろ? ここで、お前が」
アメリアは大きく頷いた。
「ええもちろん! いつも世話になってるから、そう! とびっきり派手にするの! 誕生日パーティーを!」
「ああ! その息だ! クラッカーの調達なら任せな! もしもの為にいつでも備蓄してあるぜ」
「兄貴祝い事好きっすもんね」
「でも大きい音苦手だからあんまり使いませんもんね」
「当たり前だろ。びっくするのは心臓に悪いからな!」
わいやわいや盛り上がるジャック御一同。
この有様にも慣れてしまったなぁとアメリアは生暖かい微笑みを彼らに向けた。
それは一つではなく幾つもの事情が重なった故の結果であった。
一つは、レーヴェル侯爵への直接の近況報告。
侯爵は公平であり、正しさを絶対とする。
だからこそ、ヴォルフもそれに従う義務があった。
確かにヴォルフはアメリア直属の従者である。
だけど、その賃金の支払い元は侯爵その人。
主でなくとも彼の意向を蔑ろには出来ない。
一つは、遠方への配達。
どうも遠くの星域にてちょっとした野菜不足が発生したらしく、大量の買いつけ注文が届いた。
笑顔の為をモットーとするアメリアは当然それを受け入れ、出来る限りの注文を受け準備を整えた。
普段なら絶対に含めないあの六つ目の魔法の畑の分も含めて。
あそこは素早く大量に生産できるためこういう時は非常に便利である。
速度重視の改良を施せば、今のアメリア達程度だって一週間でジャガイモが育つ位。
とは言え……正直あの畑の物を何の説明もなく売るのはちょっと怖い。
問題は一切見つかっていないが原因不明であるのは間違いのない事実なのだから。
だから生産者としての説明が必要であった。
その上で、今回の輸送では距離も積載量もテイカーの小型船では遠く及ばない。
そういった諸々の事情があって、テイカーは普段の宇宙船ではなく遠距離航海が可能でかつ積載量の多い小型船をレンタルし、諸々の助手兼肉体労働役としてヴォルフを連れていった。
それでそういった必要な事情に付け加え……。
『どうせ遠方に行くのならついでに日数に余裕を持って旅行でもしてきたら?』
そうアメリアに言われたから、こんな感じになった。
テイカーと行く気楽な七日の男旅。
ヴォルフとしてはアメリアを残していく事が心配ではあるものの、楽しみであるという事もまた事実でもあった。
ずっとアメリアの傍を離れなかったヴォルフにとってそれは初めての、しかも親友との旅行であるのだから。
『あんたの我儘主様、貫禄出て来たじゃん。お前、見る目だけは正しかったみたいだな』
それは、女嫌いであるテイカーからすれば最大級の賛辞であった。
親友にアメリアが認められ、ヴォルフはどこか自慢げな笑みを浮かべる。
このままバスは近場の惑星に降り立ちヴォルフ達を降ろし、そこからレンタルシップに乗り直通で侯爵領に。
まずは面倒な堅物親父への説教。
それが今回の旅にて、従者であるヴォルフが最初にやるべき事であった。
ありがとうございました。




