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我儘令嬢と飼い犬執事  作者: あらまき
6-ずっと昔の大切な約束(前編)

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これからの方針


 今現在、ノリにノっている。

 アメリアは自分達の状況をそう考えていた。


 確かにまあ、この状況になったのは実力ではなく、運とコネの部分が強い。

 ネットワークによる情報と先人の知恵の力は偉大であって、後ついでに想定以上にジャックが優秀であった事も大きい。

 今のところ先人と並ぶかそれ以上の実力をジャックは持っていると感じる。


 だけど当然それだけじゃなく、自分達の実力も着実に付いてきている自覚もあった。


 機材が揃って機械的バックアップが可能となったアメリア。

 元来の優れた野性的身体能力を全開で生かせる疲れ知らずのヴォルフ。


 更に言えば両者共に読書を好み、本による学習意欲が高く、積み重ねという地道な努力を彼らは得意とする。


 だからトライアンドエラーで現状は上手くいっているし、体力的にも精神的にもまだ余力も残っている。

 未熟であると同時に成長という無限の可能性を彼らは秘めている。

 まあ若者ならではの単なる無謀ではあるが、それでも彼らは未来に希望を見出している。

 ただし……その無限の可能性の中に一つ、足を引っ張る『ネック』が残っているのもまた事実であった。


 能力的にはこれ以上畑を広げられるが、広げても現状ではあまり意味を為さない。

 そう……『物流』である。

 どれだけ作物を増やしても、出荷を増やさない限り意味はない。


「という訳で、テイカー以外への輸送をお願いするのはどうかしら?」

 アメリアはそう提案し、予想通りヴォルフは難色を示した。


 そりゃあ当然だ。

 売れない頃からテイカーにはずっと支えてもらってきて、それで売れる様になったから別の場所に頼むなんてのは不義理と捉えられてもしょうがない。

 だが、これはアメリアの我儘ではなくテイカーの為を想ってでもある。


「当たり前だけど、テイカーには優先的に回すわ。もちろんこっちが多少負担しても良い。何なら利益率の高い部分だけをテイカーに任せるというのありよ。ただ……私達の今のやり方だとテイカーだけでは相当きついわ。というかテイカーの負担ばかり増していると思うの」

 素人農家が背伸びをせずに、じっくりしっかり実力を伸ばす。


 それは間違いなく正しい方針と言える。

 しかし、『無理をしない』という方針は同時に、極めて一般的な野菜しか作らないことを意味する。

 広く流通し、代替品が豊富にあるローコストな野菜という。

 それは本来目指すべき単価を上げるための手法ではなく、むしろ大量生産の発想に近い。


 個人事業主であるテイカーの往復コストを考えたらどう考えても労力の割に合わない。

 というかアメリアの予想では、ほとんど無給に近い状態でテイカーは働いてくれている。

 だからこそ、テイカーに報いる為にもう少し多く売る必要があって、そしてその為には数を稼ぐ必要がある。


 テイカーの為にも、輸送手段の確保をしようとアメリアは申し出ていた。


 それでも尚、ヴォルフは渋い顔のままだった。

「……駄目な感じ?」

「いえ……お嬢様がそうしたいのなら止めませんが……あまり好ましいとは?」

「どの辺りが駄目?」

「そもそもの、本当に根本の話なのですが、お嬢様はそれを望んでいるのですか?」

「へ?」

「俺は全然構いませんし、むしろ俺的にはその方が楽な位です。テイカーの事も別に気にしなくても構いません。アレはその程度の事に目くじらを立てる程小さな男じゃありませんし」

「じゃあ……どうして?」

「いえ、何と言いますか……はっきり申しても?」

「もちろん」

「じゃあぶっちゃけますが、その量産型の野菜をバラまく様に売るのがお嬢様のしたい事なんです? それなら良いのですが俺にはそうは……」

 そう、テイカーや自分ではなく、アメリアの事を考えたらその選択はおかしい。

 

 薄利多売で経営をするという事は、この惑星で大規模農場を作るという事は、それはこの惑星に根を張ると同じ事である。

 それは違うと思う。

 この惑星はアメリアが終の住処とするには、あまりにもわびし過ぎるからだ。


 この惑星を足掛かりにもっと適した惑星に移り住み、そして悠々自適に暮らす。

 いずれ従業員を雇い、規模を拡大し、豪華な屋敷を立てる。

 自分の力で元の生活を取り戻す事。

 それこそがアメリアのしたい事のはずである。


 だから必要なのは、背負う荷物が軽い状態のままでいる事。

 いつでも引っ越し出来る状態のまま、実力と金銭を蓄える事。

 小規模でかつ利益率の高いミドルエンドスタイルこそが正しい形。


 そうヴォルフは考えていた。

 だからこそ、ヴォルフは良さげな惑星をこまめにチェックし、その為の足しとして貯蓄には一切手を付けていなかった。


 だけど……ヴォルフのその気持ちはアメリアには伝わらない。

 ヴォルフが一つ、大きな勘違いをしているからだ。


「……なるほど。確かに言われてみれば……ちょっと本質から外れていた。数字が増えるのが楽しくて、畑仕事じゃなくて銭勘定の方が主軸になってたわ」

「まあ……極貧生活が長かったですから……」

 世間一般で見れば今でも極貧生活だが、それを彼らは知らない。

 一般的な家庭の経済なんて物を彼らが知る訳がなかった。


「うん。でもそうね。確かに考えてみれば……私の目的とそれは違うわ。ありがとう、教えてくれて」

「いいえ、無礼を口にしました。どうかお許し下さい」

 うんうんと納得し頷きながら、ヴォルフはそう口にだした。


「そうよね。私の始まりはそうじゃなくて……笑顔だもんね。沢山の笑顔はそりゃ嬉しいけど、出来たら一人一人もっとしっかり喜ばせたいわ」

「そうそう。それでこそお嬢さ……うん?」

「そもそも数の方向性で攻めても機械には勝てない。手作業の量産というのも悪くないけどそれは笑顔に繋がりにくいもんね。うんうん……」

 ちょっと予想と違う方向に話が進んでいるけれど、ヴォルフは静かに『俺はわかってました感』を出し腕を組み頷いて後方理解者面をする。


 そう……ヴォルフもまたアメリアを勘違いをしている。

 既に、アメリアにとってここは既に終の住処である。

 我儘な自分を受け入れてくれた最後の場所で、ヴォルフと共に手を取り合い成長している場所。

 何なら家族とさえ思っていた。

 だから、この惑星から離れるという選択肢はとうの昔に消滅している。


「それじゃあお嬢様。改めて方針をどうしますか?」

「うん。数を利用しての手段に出るのは撤回するなら輸送手段を増やす必要は全くない。だからしばらくテイカー頼りになるわね。何かお礼とお詫びをしたいけど……私の手料理とか喜ぶと思う?」

「絶対口にしませんし口にした瞬間吐き出します。胃の中身全部」

「うーん。闇が深い」

「とは言え……あいつも割とお嬢様の事は認めてくれているみたいです」

「そうなの?」

「はい。自分の過去を話してやっても良いって位には。……聞きますか?」

「別に良いわ。知る必要なさそうだし。ヴォルフを挟んでのやりとりで十分だもの。ぶっちゃけ知らないままでいて変に同情とかしない方がテイカーも助かるでしょ?」

「……ええ、間違いなく。ご配慮感謝します」

「良いのよその位」

「それで方針ですが……」

「上を目指すわ。農家としてというよりも、野菜そのものの品質という意味で」

 アメリアはこれまで野菜の因子、遺伝子をほとんど調整していない。

 速度や安定のみを主軸とし、出来るだけそのままで野菜を育て収穫していた。


 普通に育てられない初心者が改良、改修、配合なんて出来る訳がない。

 だから後回しにしていたのだが、ヴォルフのおかげで、アメリアの覚悟は決まった。


「つまりミドルエンドを……いえ、違いますね」

 アメリアの顔はミドルエンドの利益狙いなんて理性的な物ではない。

 もっと挑戦的で、もっと獰猛な、チャレンジャーの顔。

 ヴォルフにとっては好ましいと感じる、野性的な物であった。


「そう、完全な高級路線を目指すわ。味、品質、そして貴族的価値。出来る事を全てやって、品評会にも提出して賞を狙う。てっぺん……はまあ難しいとしても、口にした全ての人が笑顔と成る位の物を目指したいわ」

「……ええ、お嬢様らしいかと」

「ありがとう。という訳でちょっと研究室に入り浸るから私の分の負担を押し付けるけど……」

「問題ありません。このサイズの畑なら十程度までなら俺だけでいけます」

「頼りになるー。じゃあ任せるわ。ああでも」

「でも?」

「水やりだけは私がやるから」

 きりっとした顔で、アメリアはそう口にする。


 義務感とかではなく、純粋にジョウロを持って水やりする事がアメリアは大好きだった。

「……ええ、ご随意に」

 微笑み、ヴォルフは頷く。


 少しずつだけど、アメリアは昔らしく振舞う様になっている。

 しかも昔と違いただ我儘なだけでなく相手を気遣い、その上自信まで身に着けて。


 それが従者としてヴォルフは何よりも嬉しくて、だけど同時に急速な成長で子供が自分の手を離れた様な寂しさも覚えていた。

ありがとうございました。

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