魔法の畑
己の得意を生かす事。
それはサーザントにとって当然の事であった。
長所を正しくいかせば短所が残っても総合的にプラスとなる。
逆に言えば長所がない者は例え短所がなくとも強みを生かした相手には勝てない。
長所がない中で侯爵の地位を護り続けたからこそ、サーザントはそれを誰よりも理解していた。
得意がないからサーザントはレーヴェル侯爵という尊き名を、己を殺し維持し続けた。
そう、彼にとって得意能力という物はあれば生かす事が当たり前。
だからサーザントは、機械適正に秀でるアメリアの仕事は頭脳労働だと当たり前に思っている。
未だに彼の中で娘は『学園に暮らす頃のお嬢様』のままだった。
だから、その本質を見誤る。
アメリアの本質は『頭脳労働者』ではなく『奉仕者』。
誰かの為を何時も考え、無意識レベルで周りに合わせるタイプである。
我儘である事を父が望んだからああなった一面がある位に、彼女は空気を読んでしまう。
そんな周りに合わせる事しかしてこなかった彼女が中身を持った。
自分の行動で誰かが喜ぶと嬉しくなるという実を得た。
その結果の彼女が、頭脳労働という型にハマるだろうか?
そんな訳がない。
つまり、彼女は本当の意味で農家として、手を土で汚しながら半年間やっていたという事である。
安定的な収入を得ている理由もその一つ。
ヴォルフだけでなくアメリアも実際に畑仕事をする様になったから。
人口分だけ単純に畑の面積を広げられていた。
現在、アメリア達が持つ畑の数は五つ。
研究用に一つ、実験用に一つ、二つが共有管理の畑。
アメリアが半ば趣味で育てる専用の畑が一つ。
そしてヴォルフが担当する収入やノルマの為の安定供給用二つ。
それだけの作業を熟した上で、遺伝子調整やら情報面までの機械的バックアップを行う。
それが出来る程に、アメリアは成長出来ていた。
知識的にもだが、それ以上に体力的に。
とは言え、上手くいっているのはアメリアの努力だけが理由ではない。
安定した収入を手にしたというのに、何故か使うのを躊躇い大半を更なる環境改善に投与する彼らの貧乏性。
頻繁に遊びに来てはやたらと『適切なアドバイス』と手伝いをして満足そうに帰っていくジャック達海賊団。
農家.netという横の繋がりによる先輩の知識。
そしてほんのりデレたのか、アメリアの無茶を心配してか、やけに出荷に勤しむ様になったテイカー。
皆の協力によって今の環境があるとアメリアはちゃんと理解している。
一度全てを失ったからこそ、それを知る事が出来た。
誰かに支えられてここ居るという事を理解出来る程に、アメリアは人の心を知る事が出来た。
そして当然、父にも支えられている事を知っている。
例え離れ離れでも、例えその思いを理解し合えずとも、それでも、自分達が家族として支え合っている。
だからアメリアはサーザントとの別れの時に、ちゃんと感謝を伝えた。
貴方のおかげで、今の私があると――。
父との楽しい邂逅の後にお菓子や高級保存食といったお土産を貰ってから惑星に戻り、アメリアは再びヴォルフとの日常に戻る。
楽しい楽しい初心者農家さんの日常に。
失敗が減って、収入が毎月増えて、新しい知識をどんどん取り入れ活用出来て。
はっきり言って今が一番楽しい時であった。
ジャガイモと人参ならば一月で収穫出来る様な種を手にした。
それを自分達の畑に適した調整を施した。
小麦は激しく失敗して、それが悔しくて調整と実験を繰り返している。
ネットでのアドバイスがとんでもなく有用だからそう遠くない内に上手くいくだろう。
遺伝性関連の機械は三つ揃った。
調査、調整、改良、交配。
品種改良を行う為の基本的な設備は整い、その為の知識も着実に蓄えられている。
そう……正しく今が絶世期。
農家として躍進の時で……。
「さてお嬢様。そろそろ現実を見ましょうか」
「……あい」
ヴォルフの一言に、アメリアは静かに頷く。
絶頂期である事に嘘は言っていない。
ただまあちょっと良い部分しかサーザントには報告していなかっただけで。
ぶっちゃけ……かーなーり見栄を張ってしまっていた。
例えば、ふらっと立ち寄るジャック。
ジャックの知識は相当な物であり、彼がいなければここまで作物は安定して収穫出来ていないと言い切れる程に大きかった。
畑の状態と作物の成長具体だけで彼は足りない物をぴたりと言い当て、その対処も教えてくれる。
『俺に農作業なんて似合わない。それは光側の奴がやる仕事さ』なんて言って嫌々なフリをしながら喜々として直接作業も手伝ってくれる。
そう……皆のおかげでというのは比喩でもなんでもなく実際のその通り。
彼らがいなければ今でも失敗続きだっただろう。
立ち上がれているのは自分の力ではなく、ぶっちゃけ出会いという名の運が良かっただけ。
つまるところ、アメリア達が初心者と呼べる程度に独り立ち出来るのは、まだまだ当分先の事であった。
更に言えばもう一つ……。
独り立ち出来ていないだけでなく、サーザントに報告出来ていない『大きな問題』がもう一つ彼らにはあった。
あのヴォルフでさえ、どう報告しようか悩み結局報告をするタイミングを失ってしまった。
アメリアはいつもの如く見栄で。
弱みを見せる事が苦手なんて、一番似たらいけない部分がアメリアは父親に似てしまっていた。
それでその『大きな問題』なのだが……実の事を言えば、畑は『五つ』と言ったがそれは真っ当な畑のみをカウントした場合。
本当の畑の数は『六つ』となる。
一つ、あらゆる意味で訳がわからない畑が存在していた。
そう……最初の畑である。
あの、星鉄人参が巨大化した。
当然の事だが、あの後からも畑については色々調べてみた。
だけど結果は完全にお手上げ。
あらゆる調査にて異常が見つからず、原因不明のまま、農作物に異常をきたし続けている。
まず大前提の知識。
異常があるのは最初の畑一つだけ。
残りの畑はやけに土が良いだけで普通の畑である。
そしてその上で、データ的には最初の畑も大きな差異は見られない。
数値の上では、他の畑と同じで栄養が豊富な土でしかなかった。
だけど結果は露骨に変わる。
最初の星鉄人参は超巨大化。
続いてはジャガイモと小麦。
外見や重量、栄養や味、そういった要素に変化はなかった。
だけど、どちらも三分の一以下の時間で収穫可能域に至った。
小麦に至っては他の畑では育ちさえしなかった環境というのに。
もったいないから試していないけれど、下手すれば一切水やりしなくとも育つ可能性さえある。
他にもカボチャやら豆やら色々植えてみたけれど、どれも明らかに異常現象が発生している。
基本的にはやけに早熟だったり山ほど実が付いたりとそこまで大きな変化はない。
時折不用意に巨大化するけど。
それよりなにより恐ろしいのは、必ず成功するという事。
どんな作物でも、どんな状況でも、出荷出来る程上等の品質で実をつけてしまうのだ。
ちなみに出荷出来るというお墨付きはあるものの、念の為出荷は控え自分達で内々に処理している。
不気味というのもあるが、テイカーに申し訳がないのが一番の理由となる。
最初の星鉄人参の時は知らずに頼ってしまったが、あれで相当テイカーに負担をかけてしまった。
正体不明原因不明の畑から出た以上な作物を出荷するのに手間がかからない訳がなかった。
という訳で、調査は原因不明以上の結果は出てこない。
正直、完全にお手上げだった。
本当にどうしてこうなったのかさっぱりわからない。
だからまあ原点に返って……調査とヴォルフのリベンジも兼ね星鉄人参を再び育ててみる事にした。
そうして……。
「やっぱりデカイね」
言わなくてもわかる事を、アメリアは口に出す。
なにせ葉っぱの時点でもうサイズがおかしい。
大根だってここまででかくはならんだろうに。
「いえ……ですが……」
しげしげと眺めながら、ヴォルフは何かに気付いた様そう口にした。
「ん? どしたの?」
「……収穫しても宜しいでしょうか?」
「そりゃ良いけど……どうしたの?」
「いえ、それの確認の為です」
そう言ってヴォルフはそそくさと畑の中に入り、ずぼっと大きな音を立て星鉄人参を引っ張り上げる。
やはり相変わらず巨大であった。
「……形状的にオクラっぽくもあるんだよなぁ。ただまあサイズおかしいけど」
「……やっぱり。お嬢様。これ、小さいです」
「いや、大きいって」
「そうではなく、前の時と比べて……十センチ、いえもう少し程小さくなっています」
「……え?」
言われてもアメリアはピンとこない。
ただ、ヴォルフは持って見て確かに違和感を覚えた。
明らかに以前よりも軽い。
前の時よりも一回り程以上は小さいだろう。
「……どういう……事?」
「わかりません。ただ……この不思議な魔法の影響はどうやら時間限定の様ですね」
徐々に影響が薄くなっていると推測したヴォルフはそう口にする。
本当にそれはただの憶測でしかない。
だけど現状ではそんな単なる憶測以上に出来る事はなかった。
あらゆる方法にて原因が観測出来ない。
ただし、影響はこの畑一つ分のみであるという事に加え、その影響も徐々にだが弱くなっていると思われる。
だったらまあ……気にししない事にして利用するべきだろう。
自分達の食料となる絶対美味しく成功する魔法の畑として、彼らはここを使う事に決めた。
せめてこの効果が切れる前に、理由が特定出来たら良いなという位の気持ちで。
使わないという選択肢がもったいなく感じる位の魔力と魅力がこの畑にはあった。
ありがとうございました。




