不器用な男達
このご時世に無意味とも言える剣の訓練を終えた午後の時間、ヴォルフは定期報告の為その惑星に向かう。
惑星ファミリア。
大都市型惑星二十と無数の特化型小惑星を束ねるレーヴェル侯爵領の基幹にして母星と呼ばれる場所。
つまり……アメリアの父、レーヴェル公爵領主が滞在する惑星である。
星船に乗り、亜空間ワープジャンプを繰り返してもでも二十分という時間をかけ、ヴォルフはその惑星に到着した。
毎回の事だが、酔うのだけはどうにかならない物かと自分の体質に苦笑いを浮かべながら。
「やぁ。良く来たね」
船を降りた瞬間に、護衛を複数連れたその男性に声をかけられる。
その、サーザント・レーヴェル侯爵自身に。
「私の様な卑しき身分の者にわざわざお出迎えなどして頂かなくとも……」
「良いさ。散歩のついでみたいな物だしね。それに、君にはそれなりに苦労をかけているからこの位は報いたい。あの我儘娘の面倒という苦労をね」
「いえ、その様な事は御座いません」
「そうか、それは何より。じゃあ、後は書斎で話そうか。飲み物は……いや、やっぱり別の場所にしようか。政務室の方で良いね」
「気遣い感謝します」
例え防水対策をしてあるとしても、書斎の様な場所で飲み物を飲むという行為を彼は好まない。
彼のレトロ主義でかつ書物愛好家であるという個性を侯爵は理解していた。
「構わないさ。本好き同盟としてその気持ちは大切にして欲しい物だしね」
そう言って、彼は笑い背を向け歩き出す。
彼の周りに突き従う護衛より数歩離れた位置で、ヴォルフは侯爵の背を追い歩いた。
「それで、娘の様子はどうかね?」
コーヒーを片手に微笑みながら、侯爵は尋ねた。
世間話の様な体で、話の枕として、娘の話を。
「いつも通りです」
「だろうね。こっちでもそう聞いてるよ」
「はい」
「どうにか出来ない?」
「どうにかとか?」
「いや、こう……我儘を治せとは言わないよ。ただ、もう少しマイルドにさ……」
「私には、何とも」
「ヴォルフ、もう少し本音で話してくれ」
ヴォルフは不器用な男である。
腹芸が出来ない訳ではないが、言われた事をそのまま実行する位しは愚直な男であった。
「どうにか出来るならとうにしてます。何年の付き合いだと思ってるんですか」
「ああうん。貴重な本音をありがとう。そうだよね……何年の付き合いになるんだっけ?」
「私が五歳の時から十年とおよそ半年です」
「そう……。うん。そうか。五歳だったんだよね。……我が娘のたった一つの良いところは、君の様な従者を手に入れた事だな」
「恐縮です。そして、お嬢様は良いところが沢山ありますよ」
「本音で話そう?」
「面倒な事に非常に有能だからこそあれだけ我儘になったんだと思いますよ? あとあんたの所為だ」
「ああうん。痛い本音をありがとう。そうか。……とは言え、なかなかねぇ……」
「旦那様。差し出がましい事ですが……」
「ん? 何だい?」
「本当に問題とお思いで、解決したいのでしたら旦那様も多少は本音を漏らして下さらないと困ります」
侯爵は微笑からニコっとした笑い顔を浮かべた。
「悪いね。大人はズルい生物なんだ」
そんないつもの煙を巻いた様な態度を見て、ヴォルフは小さく溜息を吐く。
絶対とは言わない。
だが、アメリアの性格が苛烈になったのはこのサーザント・レーヴェル侯爵の影響は大きいと考えている。
理由は二つ。
一つは、侯爵のこの性格である。
例え身内でさえ本音を笑みの後ろに隠す。
大人ならともかく幼い子供から見たら不気味な存在に見えてもしょうがなく、また愛を疑っても仕方がないだろう。
もう一つは、もっと単純な理由。
侯爵はいつも仕事を複数抱え、いつも仕事をこなしている。
つまり、アメリアと侯爵は親子でありながらもほとんど逢った事がないのだ。
惑星間通信での連絡すら、侯爵は面倒がってやらない位に。
正直に言えば、ヴォルフからしてみてもアメリアに親子としての愛がある様にはとても見えなかった。
アメリアだけでない。
三人の子供全員に対して、侯爵はそんな扱いである。
「んで、学園の方は上手くやってる?」
「はい。話を聞く限りは」
「そう。んで本音は?」
「それはむしろ草を蔓延らせているそちらの方からお聞きしたいのですが?」
「おや厳しいね。まあ良いでしょう。はい」
既にそう返される事を想定していたのだろう。
侯爵はテーブルの上にあった資料をぽいっと投げた。
「紙の資料なのは勘弁しておくれ」
「いえ、私もこちらの方が読みやすいので」
電子書籍式も脳波感応式も直接のデータ通信スタイルもヴォルフはあまり好まない。
クラシカルな視覚取得の方が古典主義なヴォルフにとってはありがたい事だった。
ありがとうございました。




