山程のオムライス
アメリアがジャガイモと小麦を育て始め、一月が経過した。
朝に田畑を見てからネットにつないで情報収集をし、昼まで勉強して午後はゆっくりとして……。
当初思っていたよりもよほど気楽な日々であった。
とは言え当然と言えば当然だ。
限定的とは言えネットによって大量のノウハウを得ていて、その上金銭収益二の次の育てやすい作物。
しかも比べる対象は最初の農作業、つまり星鉄人参である。
楽と感じない訳がない。
しかも限定的ネット情報と言っても、研究型農家の実体験による生の声である。
役に立たない訳がなかった。
そうして一月程農作業に従事してみて、その感想は……。
「やっぱりさ、おかしいよね?」
アメリアの言葉にヴォルフは眉を顰める。
彼らはその光景をじっと見つめる。
ジャガイモ畑と小麦畑を。
別に変な様子は見られない。
星鉄人参の様に巨大化した訳でなく、根腐れした訳でも病気もない。
そう、星鉄人参騒動と異なり外見上の不思議な事は何も起きていない。
じゃあ何も問題がないかと言えばそれはおそらく違う。
アメリアもヴォルフも正しい知識がある訳ではないのだが、これが異常だとわかる程度にはおかしい状況化にある。
ジャガイモの収穫は早くて二か月遅くても四か月位。
小麦の場合は三か月位。
そのはずなのに、既にジャガイモは収穫可能となり小麦もそろそろ収穫出来そうと黄金畑の稲が実り頭を垂れていた。
これは絶対におかしい。
それだけは確信に至っていた。
今回、品種配合等の調整は何もしていない。
当然早く育つ種も使っていない。
練習という事もあり文字通り素のままで育てている。
そのはずなのに、この速度であった。
「……ヴォルフ、どうしようか?」
畑を茫然とした様子で見ながらアメリアは呟く。
ヴォルフは少し考え、出来る事を言葉にした。
「とりあえず、収穫しましょうか」
「あい」
そして、彼らはジャガイモ畑の方に向かう。
そんな中、ヴォルフはこっそりある決意をする。
またテイカーの奴を巻き込もう。
そんな決意を、彼は強く持ちながら籠を背負う。
気づけば自分だけでなく、アメリアもくそださジャージ服が気にならなくなるほど似合う様になっていた。
それは、ある種一つの結論と言っても過言ではないだろう。
この自由で広大な宇宙の中、機械技術が発展し完全栄養食を空気から生成し、野菜そのものであっても機械による完全自動大量生産が可能な時代。
アメリアの実家であるレーヴェル侯爵領の様に惑星そのものを畑へとテラフォーミングするのが当たり前な時代に、何故わざわざ農家になるのか。
隙間産業、需要の問題、貴族的価値。
理由は色々あるだろうが、結論はそうじゃない。
それは農家に限らずおそらく全ての事に共通する事柄だろう。
つまるところ……笑顔。
自分の作った物を喜んでくれるという事は、思った以上に嬉しい事である。
アメリアは目の前に広がる巨大オムライスと、それを食べる子供達の笑みを見て、再度そう確信する。
ジャックは約束通り、アメリアをアメリアの星鉄人参を落札した店主の店まで運んでくれた。
というか事前に経路を確認し万が一にも遅刻がない様前々日にアメリア達の惑星付近で待機していた位はジャックも今日を楽しみにしていた。
ジャックはオムライスが大好きだからである。
レストラン、コサージュ。
美形のカリスマシェフがオーナーを務めるこの店の見所はそのルックスの良いオーナーシェフ以外にももう一つある。
それが、こうして定期的に開かれる超特大料理イベント。
料理自体は奇をてらわないシンプルな一品物。
ただし、その大きさは家をも超え、時には惑星の傍を回る衛生の様に成る事さえも。
そんな事を定期的に開くのだから当然話題になるも、彼自身は小さな小料理屋の名物シェフ以上になろうとはしない。
有名店からのヘッドハンティングも、領主直々の宮廷コックのお誘いも、全てを断りここにいる。
その理由が最初はわからなかったが、今のアメリアはすぐ理解出来た。
巨大なオムライスを切り分ける男性の笑顔。
そしてそれを受け取り本当に美味しそうに食べる子供達。
それを見て、そしてこの胸の暖かさを感じたら、理解出来ない訳がない。
これが、彼が人生においてやりたい事の最上位であると。
「……お嬢様。私達も貰いに行かなくても良いので?」
ぼーっと立ち続けるアメリアにヴォルフは尋ねが、いまいち反応がおかしい。
どこかぼーっとして、赤面して……。
「ううん。私、これだけでお腹一杯で……」
「――そうですか」
どこか不機嫌そうな顔のままそうとだけヴォルフが答えると、アメリアははっと我に返った。
「今ヴォルフ怒ってた!?」
「いえ、怒ってませんけど?」
「いや、怒ってるじゃん! 何かあった? ごめん私嫌な事言った!? それとも無視しちゃった?」
「いえ……本当に大丈夫です。ただ……」
「ただ、何? 何でも言って。本当ごめん!」
「いえ、謝罪は良いです。その、どこかそれほどお気に召したのか教えて頂けたらと……」
「ううん? えと……そうだね。やっぱり純粋なところかな」
「純粋……ですか。いえ、確かにお嬢様らしいところかもしれませんが……」
「うん。自分でもさ、ちょっと驚いている。私が子供が好きなんて、ちょっと意外な感じ」
「え? そっちです?」
「へ? そっちって? ほら、みてもあの少年のにこやかなーな顔。こっちまで嬉しくならない? ほっぺたにケチャップ付けて可愛いねぇ。それで、何の話だっけ?」
ヴォルフはどこか気まずそうに宙を見上げ、小さな声で呟いた。
「いえ、俺も食べてみたいんで並んできて良いです?」
「あ、うん。どうぞどうぞ。ついでに私のもお願いして良い? さっきはああ言ったけどさ、せっかく自分の野菜を使ってるんだから食べておきたいし」
「了解です。星鉄人参の部分を切り分けて貰えるか相談してみますね」
そう言葉にし、小さく会釈をしてヴォルフは配膳の列に並んでいった。
「んー? さっきまでは怒ってたのに今はほっとしてる感じ? どうしたんだろ?
アメリアはヴォルフの後ろ姿を見ながら、小さく首を傾げた。
ありがとうございました。




