この三つの中から
アメリアが不用意に投稿してしまったたオススメ野菜募集スレッド。
それによりスレッド内は混沌を極めた状況となっていた。
そもそもの話だが、この『農家.net』は変人の極みである特殊な野菜オタク達の集まりである『数奇者倶楽部』つまり変わり野菜愛好家の集いに配布されている物である。
彼らは独自の拘りがあり、その拘りの中には特定の野菜のみを愛する者達だって少なくない。
そんな彼らに布教チャンスを与えたらどうなるか、推しを広める機会を許せばどうなるか……。
その結果こそが、アメリアの立てたスレッドである。
とは言え、声の大きさや知識の深さ、扇動の才能と言った物により船頭は厳選されていき、最終的な結論には、大まかに三つの作物に収束していた。
即ち、芋、米、小麦。
そう……主食である。
人が生きる為の食事とは合成食ではなく、正しく作物である必要がある。
心の栄養は味以外では接種出来ない。
それは彼ら農家の共通の思想。
彼らは愛があるから機械作業ではない手動の農業を営んでいる。
問題となるのは、その内容。
彼らの主張は決して交わる事なく、変わる事もない。
その語らいは冷静な口調でありながらも決して譲らない。
もはや宗教戦争のそれに等しい。
ちなみに大まかに分けたら三種類というだけで厳密に言えばもっと細かい。
芋だけをピックアップしても。
育てやすいよ派。
美味しいよ派。
フライドポテト大好き派。
蒸かし芋もぐもぐ派。
本当はサツマイモの方が好き派。
カレー過激主義派。
数えるのさえバカバカしい程にキリがない。
書いてある事的に言えば非常に高度であり、深い農業知識がある事が窺える。
だけどやっている事はただの子供の喧嘩であった。
「とりあえず、最低限、本当に最低限だけを何とかまとめたわ」
苦労した顔のアメリアに対し出来る事は、そっと紅茶とご褒美用に買ったクッキーを差し出す事だけだった。
「お疲れ様です」
「ん。ちょっと読んでみて」
そう言ってアメリアはメモパッドをヴォルフに手渡す。
『
芋。
安価で育てやすく土壌の調整も少ない。
栽培に手間もかからず収穫までも短い。
米。
水管理が必要で気候、土壌の調整が比較的大変。
特に初期の手間は多いが面積割合の収穫は多く金銭的価値は高い。
小麦。
小麦の種類によって大きくノウハウが変わる為一概には言えない。
成長が早く収穫までの期間は比較的短い。
そして『変わり野菜愛好家の集い』トップの推し作物である為『農家.net』でも情報量は多く、またフレンド登録もされている為直接連絡する事も可能。
ちなみにトップのネット上での名前は『小麦様の奴隷』。
昨日のフレンド要請の中にあった。
』
「一長一短って感じですね」
「そうね。それでどう? ヴォルフはどれが良い?」
「俺が決めるんです?」
「別に決めても良いけどまだ相談って感じ。とりあえずの主食になるし」
「ふぅむ……難しいですね。お嬢様はどう思います?」
「正直、どれも魅力を感じてる。難易度はどうもイモ、小麦、米って感じみたいね」
「そうですね。お嬢様はパン派じゃありませんでした?」
「そうだけど……この環境でパン作るのは難しくない?」
「お嬢様ならそう難しくないかと。俺の方で小麦以外に必要な物揃えておきましょうか?」
「それならヴォルフが好きな物を作るからそっちにしましょうよ。ヴォルフはどうなの?」
「俺もパン派ですよ」
「はい嘘! そうやって私に気を使うのわかってるんだから」
図星を突かれたヴォルフは困った顔で頬を掻いた。
「いや、俺の意見は……」
「良いから教えてよ。参考程度にするからさ」
「えと……その……正直言えば食べられたらそれで。そもそも腐ってもない頂いた物に文句を付けるのは……」
「はいこの話はここまで」
アメリアはヴォルフの闇が噴き出す前に、慌て会話を打ち切る。
そう、アメリアとヴォルフの生まれは同じではない。
むしろ正反対と言っても良いだろう。
天上と、最底辺という意味で。
「……ごめん。辛い事思い出させた?」
アメリアのしょんぼりした顔を見て、ヴォルフは首を横に振る。
「まさか。お嬢様方のおかげでもう忘れていましたし思い出してももう辛くもないですよ。ただ……どうも食べ物を選ぶというのは中々に抵抗が……」
「ふむ……んじゃこうしましょう。頭の中で今一番食べたい物を思い浮かべて、それの材料か相性の良い作物を三つから選ぶで」
「俺が選ぶんです?」
「いいえ、二人でいっせーのせで指差しましょう」
「それ、意見が食い違ったらどうするんです?」
「両方育てたら良いじゃない。幸い二人いる訳だしね」
従者と主ではなく、農家二人。
その意図に気付きヴォルフは微笑を浮かべた。
「……なるほど。面白いですね。ではそうしましょう」
「ええ。それじゃ、いっせーのせ!」
彼らはタブレットに書かれた作物の名を指差す。
ヴォルフの指は芋を差し、アメリアは小麦を差していた。
「それじゃヴォルフ、注文よろしくね」
そう言って頬笑むアメリアにヴォルフは了解を示す様小さく会釈した。
ありがとうございました。




