数奇者達からの贈り物
ハプニングに見舞われながら海賊船で移動して、オークションを経験して、良くわからない知り合いが出来て、騒いで帰って。
それはまるで、ちょっとした旅行みたいだった。
そんなプチ旅行も終わり、アメリアは何もない自分だけの星にヴォルフと共に戻る。
色々あったけれど、終わってみればまあ楽しい気分転換であった。
送ってくれたジャック達はまた別の場所に向かっていった。
まだ見ぬお宝が俺達を待っている。
そんな事を言っていたが、来月一緒にオムライスを食べに行く約束があるからそう遠くまでは行かないだろう。
そうして、またヴォルフとの二人の生活に戻ってから数日……。
適当な野菜の種をテイカーに頼み、それの宅配が届いた日の事だった。
相変わらずの女嫌いでアメリアを傍にも寄せず、ヴォルフが一人で荷物を取りに行き、身の丈の倍はありそうな箱を二つ持って戻って来てからヴォルフは怪訝な顔で尋ねた。
「お嬢様。何か注文しました?」
注文内容を考えたら小さな箱一つで十分のはずなのに、やたらと大きい箱が二つ。
しかも結構な重量をしていた。
「へ? いや今回は種とアンプル以外何も頼んでないけど……どういう事?」
「何か、お嬢様名義で荷物が……」
「注文票には何て?」
「機械とだけ……」
「ふぅん? 開けてみましょうかしら」
アメリアの言葉にヴォルフは頷き、より重たい方のコンテナをアメリアの前に降ろす。
そのコンテナを展開すると中には更に二つ程箱があり、そしてその箱を開けると、アメリアさえも見た事のない機械が入っていた。
「何これ?」
「お嬢様がわからない物を俺にわかる訳ないじゃないですか……」
「いやまあそうなんだけどさ……」
アメリアは箱の中にある二つの大きな機械を首を傾げながら見つめる。
一つは、おそらくモニター……だと思う。
映像出力装置、極一般的なモニター。
ただ、確証は持てない。
モニターだけにしては機械が大きすぎるからだ。
厚さ一ミリをゆうに切り、大画面モニターだって絨毯の様に巻いて運べるこのご時世に、三十センチもの厚みを持つ物がただのモニターなんてのはちょっと考えられない事であった。
もう一つの箱の中身は更に箱……いや、そうじゃなく箱みたいな形の機械だった。
外から見えるのは幾つかのボタン型スイッチ。
分厚いモニターと箱型の機械。
つまり、何もわからなかった。
そう、アメリアは知る訳がなかった。
それの外見が西暦二千年というはるか古代の時代に存在した、旧式のデスクトップパソコンを模して造られているなど、わかる訳がなかった。
家の中に戻り、アメリアはいじいじと機械を操作する。
何かはわからないけれど機械というだけで一定の興味をアメリアは持つ。
伊達に赤子の頃から機械を壊し、学園時代でも積極的に機械をいじくり回していなかった。
「お嬢様。箱の裏に取説がありました」
「へー。何って書いてある?」
アメリアは機械二つから目を反らさずに尋ねる。
ヴォルフは、何とも言えない表情を浮かべ、取説の表紙に手書きで書かれた文章を読んだ。
「えと、『秘密結社よりニュービーに愛を込めて』と」
「ああ……」
アメリアは誰が送ってきたかを即座に理解した。
無言でヴォルフから取説を受け取り、書かれた通りに機械の設置を始める。
無線リンク一切なしの有線オンリーで、しかもやたらと太い汎用性のない専属コードを繋ぐという良くわからない仕様。
電気でさえ有線接続オンリーなんてのは正直あり得ない。
なんでこんな線が邪魔な仕様なのか本当にわからないが……たぶん、拘りだろうなというのは理解出来た。
そして二つを繋ぎ、テーブルにモニターを設置して、アメリアは起動の準備を終えた。
「テーブルがモニターだけでスペースなくなるとかちょっと笑えて来る」
そう言葉にし、電源を入れる。
ブォォォンと、機械内部から何故かファンの音が鳴り響く。
そこからやたらと立ち上がりが遅く、画面が表示されるまでに電源入れてから三十秒から一分くらいもかかった。
その上モニターに映される映像はやけに解像度の悪く見えづらい。
映し出されたのは、青空と大地という謎の壁紙。
その壁紙に合わせる気の一切ないアイコンが二つだけ、画面右上で激しく自己主張していた。
このパソコン型の機械にあるのは、そのアイコン二つの機能だけだった。
この旧レトロデスクトップ型パソコンを模した良くわからない機械の名前は『農家.net』。
入っている機能は二つだけで、そしてその二つで容量の大半は埋まっている。
とは言え、例え容量が余っていても限りなく独自仕様の機械である為既存のプログラムを入れる事は叶わないが。
機能一つ目は『農チャンネル』と呼ばれる文字のみを送り合えるスレッド式掲示板。
もう一つは『プライベートDM』と、フレンド登録した相手にダイレクトメールを送る事が出来る機能である。
まず、前提だがこの『農家.net』は他のどのネットワーク環境とも接続出来ない。
この『農家.net』が入った他の機器と繋がる事は出来るがそれ以外とは一切不干渉で、ほとんどスタンドアロンに近い。
そしてこの『農家.net』を持っているのは『変わり野菜愛好家の集い』の同胞か同盟だけ。
つまり、変人オンリー。
要はこれ、ニックネーム(ハンドルネーム)を付け変人同士で語り合うだけの機能をもった機械である。
変態だらけの仮面舞踏会……なんて言葉を思いついたアメリアだったが口にするのもアレだからそっと忘れる様飲み込んだ。
「……これ、俺でも何とか操作出来そうですね」
取説と画面を見ながらヴォルフは呟く。
テレビの操作さえままならないヴォルフですら何とかなりそうな程、そのキーボードという方法での操作は容易い物であった。
「……これ、凄いわね」
アメリアは驚愕する気持ちを抑えながら、そうとだけ呟く。
あまりにも酷い機能と邪魔過ぎる見た目。
画面は汚いし反応は遅いし操作し辛いし場所取るし邪魔だしと悪いレトロ感満載。
おまけにタッチしても反応しない。
だけど、ある一点で考えたらアメリアが理解出来ない程この機械の技術は高かった。
「何が凄いんです?」
「ヴォルフ気づかない?」
「へ? 何がです?」
「……うち、ネット環境ないじゃない。中継衛星さえ近場にないんだから」
「…………あっ!」
ヴォルフもそれに気が付いた。
そう、これはどういう原理かわからないがこの極小惑星でさえネットワークに接続出来ている。
機能は貧弱で文字しか送れないが、それでもネット的な意味でのクローズドサークルであるここがネットが繋がるという技術は、文句なしでの大発明と言えるだろう。
どんな理屈なのかアメリアにだって想像も出来なかった。
「さて……どうしましょうかね……」
「どうするんです?」
「とりあえずユーザー登録だけしておきましょう。名前何が良いかな?」
「本名じゃ駄目なんです?」
「駄目みたいよ。特定出来ない範囲じゃないと」
「ふぅむ……。じゃあ海賊のお手伝いさんはどうです?」
「んー……海賊は臨時だし……でも他に私の特徴ってないし……じゃあ少しひねって『我儘メイド(仮)』にしておきましょう。我儘メイド(仮)で登録して……さて、どうしようかなー」
掲示板に入り、流し見しながらアメリアは何をどこに書き込むかを考える。
適当なスレッドを流し見するだけでも良いし質問可スレッドに疑問を書き込んでも良い。
だけど、どうせならとアメリアは自分でスレッドを起てて見る事にした。
いつだってアメリアは習うより慣れろと言う感じで物事に突撃してきた。
それで多くの失敗を重ね、更に我儘時代に至っては失敗を振り返る事もなかった。
だから今のアメリアは、あの頃よりも少しだけ大人になった。
人より失敗を怖がらず、そして失敗をちゃんと反省出来る様になったから。
かたかたとキーボードを鳴らし、文章を生成する。
他のスレッドの雰囲気に合わせて敬語を止め、それっぽい文章を考えて……。
『新人農家だけど次の野菜が決まらないの。何か良い野菜ない?』
そんな文章のスレッドを、アメリアは生成し、機械の電源をオフにした。
「あれ? 消すんです?」
「うん。そんな人数いないしすぐには返事こないわよ。他にやる事沢山ある訳だし、今日はここまでにして明日朝確認してみるわ。お返事ゼロかもしれないけどね」
「なるほど。では切り替えがてら紅茶でも飲みますか? 安物ですが」
「合成じゃないだけで十分よ。お願いするわ」
そう言って、アメリアは両腕を高くあげ背筋を伸ばした。
ありがとうございました。




