拘り
『変わり野菜愛好家の集い』
彼らがどういう存在かと言えば、結局のところはただのマイナーな野菜が好きのアマチュアコミュニティに過ぎない。
皆初心者ではないがまだまだベテランとは呼べない位の技量の農家で、だというのに普通の人がやらない奇行を繰り返す。
ただ、悲しい事に変人かつ優秀な集まりでもある為、平均的な農家よりも優れているのは確かである。
言うなれば浪漫野菜愛好家集団。
あまり世間から受けない様な儲からない野菜を作っては悦に入り、ドヤ顔で自慢するなんて性癖を持った変態共。
とにかく癖が強い農家と思ったら問題はないだろう。
特に彼らが拘りを見せるのは既存野菜の品種改良、それも一つの属性を特化した状態にある。
味とか栄養とかそういった儲かりそうな、普通の農家が狙う事は一切やらない。
彼らの最終的な野望は『象より重い』とか『家程もある』とか、そういった外見のインパクトがあって尚且つ実現が困難な物。
だからこそ、彼らは星鉄人参を巨大化したアメリアを仲間になる資格があると考えていた。
ただでさえ育てにくい星鉄人参をわざわざ巨大化した。
それは浪漫でもなければ出来る事ではない。
そう思って。
そして、事実を知って彼らは打ち震えた。
『特に何もせずにああなったよ』
アメリアの言葉に彼らは驚愕する。
何もせずにそんな事が起きる訳がない。
それは意図的にその現象を引き起こそうと研究している彼らは痛い程に理解している。
つまり、アメリアが当たり前の様に何か異常な事をやったという事になる。
『そもそも私これが初めての野菜だし』
彼らは別の意味でアメリアに驚愕する。
育てにくく失敗しやすく、それでいてとにかく面倒な星鉄人参を最初にするというセンスは彼ら変態集団さえも『なんて変態なんだ!』と叫ぶ程度にはあり得ない事であった。
彼らの反応から自分の選択がいかに常識離れしていたかを悟ったヴォルフは、少しだけ反省を覚えた。
その後に、このご時世にネット機能皆無農家の知り合いなしで流刑地の様な極小惑星で農業を始めたと聞いた時――彼らはドン引いていた。
確かに彼らは異常者である。
だが、そんな異常者である彼らから見ても、アメリアはクレイジーな自殺志願者にしか見えなかった。
「という訳で悪いけど、私には貴方達の仲間に成れる程知識も経験もないわ。まあなりたいとも思わないけどね。私普通の農家を目指すつもりだし」
そう言ってアメリアはケラケラ笑う。
その言葉に、この場にいるアメリア以外の全員が頭の中で共鳴したかの様に『無理だろ』と頭の中で呟いた。
「うぅむ……これを放置するのは流石に目覚めが悪いな」
男はポリポリと後頭部を掻き呟く。
その位アメリアは無茶しかしていなかった。
かと言ってこの会合だけで農家としての常識を叩きこむにはあまりにも時間が足りなさすぎる。
考えて……。
「ところで、割と今更だけど皆の名前は何って言うの?」
アメリアのその問いで、男はある覚悟を決めた。
「ふむ……まあ、そうだな。とりあえず、これから俺達は自己紹介をしていく。それに合わせてそっちも自己紹介をしてくれ。良いか? 俺達に合わせてだぞ?」
「へ? まあ、うん。別に良いけど……」
「良し。じゃあお前ら、頼んだ。何時もの様にな」
男の言葉を聞き、横に座る三人は頷き彼らなりの自己紹介を始めた。
「まずは、俺。団員一号ことグラム・グラム。重さって……良いよね? こう……ときめきがない? 持ったときに野菜がずっしり重いと」
大柄の男、グラムはそうほっこりとした笑顔で言葉にする。
体躯は良いけど顔は朗らかで、そして目はつぶら。
クマ……というよりはどこかカピバラの様な柔和な雰囲気を醸し出していた。
「次は私。団員二号のセリア。野菜には風味があってこそ。香り高くうっとりする様な野菜が好き」
おどおどしながらメンバー唯一の女性はそうアメリアに伝え、そしてすぐマントを被り直す。
一瞬だが、頭頂部の猫の耳の様な物が見えたがアメリアは見えなかった事にした。
種族の違いなんて気にした事はないが、それを気にする人だって居るとアメリアは知っているから。
「そして僕が団員その三。大艦巨砲主義のオーギュスト。オーグと呼んで欲しい。そして余ってたら是非ともあの星鉄人参の種を売って貰いたい。何ならこちらの持つ種とでも交換でも良い。あれは素晴らしい。だがそれ以上に理屈がわからないというのが良い。それを解明する事により更なる巨大化へのアプロ――」
「いかん暴走状態に入っている。団員その一」
「あい」
男の命令に従い、その一ことグラムはその三であるオーグをひょいと持ち上げ、そのまま扉の方に移動していった」
「待ちたまえ! どうして邪魔をする同志よ! 君ならわかるだろうチャンスがあれば行く。誰だって行く。そう僕は大きい物こそ至高。つまり身長は高い程良くおっぱいは巨乳である程ジャスティス。そうつまり大は小を兼ねるというのは世界法則であり――」
そのまま、グラムとオーグは静かにフェードアウトしていった。
「すまんな。何時もの事とは言え発作が起きてしまった。落ち着いたら戻って来る。……落ち着いたらな」
「……え? アレ良くある事なの?」
「いや、いう程頻度が多い訳ではないぞ。精々半日に一回位だ」
「多くない?」
「ちなみにうちのメンバーは全員あんな感じで暴走する。無論、俺もだ」
「やばいわね」
「大丈夫。アメリア嬢程ヤバくない」
「私普通じゃない?」
「それはない。さて……自己紹介も最後か。まずは表から。俺の名前はウィード・ホワイト。こっちが妹のウルスラだ」
部屋の隅にいた少女は兄の紹介を聞き、ぺこりと頭を下げアメリアに微笑んだ。
「だがしかし! ウィード・ホワイトという農家は所詮表の顔に過ぎない! 教えてやろう我が裏を。我こそは『変わり野菜愛好家の集い』当主。人呼んで――『小麦狂い』である」
「は? 小麦?」
「そう、我は農家であって農家にあらず。我はお小麦様の信奉者であり奴隷である。我はお小麦様を愛で、育て、愛する為だけに存在する。我が愛は黄金の稲に、我が野望は白く甘き粉に。そう、合成食料のパンなど邪道である真のパンとはお小麦様の愛を一身に受け精練された小麦粉にしか宿らずそれなのに世界は安易な合成を選びお小麦様の威光にひれ伏そうとさえせず……」
「ああ……こっちもトリップに入った……」
セリアはそう呟いてから溜息を吐き、どこからともなくおもむろにハリセンを取り出し、アメリアの目の雨でウィードの脳天に思いっきり叩き込んだ。
その音は、ハリセンと呼ぶより爆弾と呼ぶ方が近かった。
小さな爆音を受けたウィードはきょとんというか茫然した様な、そんな顔をしたまま、ぱたりと地面に倒れた。
およそ五分の閑話休憩。
ウィードが意識を戻し、グラムとオーグが戻って来てと割と慌ただしい五分であった。
そして皆が席に着き直した後、ウィードは改めて尋ねた。
「さて、それではアメリア嬢。自己紹介を頼めるかな? ああ、そちらの執事が先かね?」
挑発的な表情でウィードは尋ねる。
ヴォルフは静かに首を横に振った。
「俺はただの従者だ。そう扱ってくれたら十分過ぎる」
そして再びアメリアが皆の視線を集める。
アメリアは、何となくだが意図が理解出来た。
要は拘りを見せろという事だろう。
彼らはその拘りを大切な物として集まっているのだから。
とは言え、アメリアにそんな物はないが。
「私はアメリア。今は訳あってただのアメリアよ。こっちはヴォルフ。それで……農家としての一言をいえば良いのよね?」
「まあ、そうだな。別に何も言わなくても良いけどな」
「まあ、私は新人だからね、安い挑発とわかっていても乗って先輩孝行してあげないといけないのよ」
「はっ。お嬢様と思ったらとんだはねっ返りだったか。まあ構わん。それで、アメリア。君は自分の何を俺達に伝えるんだ?」
「んーそうねぇ……。あいにく私には拘りはないわ。そもそも農家って何するのかわからなくなってきた位だし。だけど……」
「だけど?」
「今日私の野菜を競り落としてくれた人がね、嬉しそうだったの。誰かを喜ばせようとしてる人が、私の野菜で嬉しそうにしてくれた。それがね、とても新鮮で、心にじーんと来たの。だからさ、そういうの良いなぁって思ってるところ。私の拘りなんてそんな物よ」
誰かの役に立てる。
誰かが自分のおかげで幸せになっている。
別段奉仕の心に目覚めたとかいう訳ではない。
もっと純粋に、人を笑顔にする事の幸せを理解したというだけで。
そして、それは農家となる人間皆が抱える共通意識の様な物である事も確かであった。
「……それを言われたら何も言えないね」
オーグの言葉にウィードは苦笑し頷いた。
「ああ。そうだな。そう言う事しか出来ん」
ウィードはどこか満足に、だけどどこか不満そうに掌大のカードをアメリアに手渡した。
「これは?」
「俺達の個人IDコードと住所が乗ってる。何か困ったら連絡しろ。農業に関わる事なら手助けしてやる」
「あら、私は合格って事かしら?」
「いいや不合格だ。俺達の結社に入る資格はない。それは浪漫じゃないからな。だけど……ああ、だけどあんたは確かに農家だ。だからさ、新人農家に先輩として手助け位はしてやりたいのさ」
「どっちかと言えばお節介焼くのとか好きな感じ。最近まで初心者だったから、先輩面したいの」
グラムはそう言葉を付け足した。
そう、アメリアは彼らの言う拘りを持ってはいない。
だけど、確かに彼女は農家だった。
自分の作った物を慈しみ、そしてそれが誰かを幸せにする事に喜べる、そんな一般的な、当たり前の――。
ありがとうございました。




