オークションステーション
モニター前方に表示されたのは、惑星と呼ぶにはあまりに小さい球体形状の施設。
その分類上では『ステーション』と呼ばれる建築物こそが彼らの目的の場所だった。
『ステーション』
それは特定かつ単独の目的を持ち、尚且つある程度以上人が集まる惑星型施設の事を示す。
わかりやすく言えば劇場、VRゲームやスポーツの大会施設、ムービーシネマといった物を取り扱う惑星がそれに該当する。
大型スーパーなど少々大規模で特殊なショップやアスレチックジムも当てはまるだろう。
惑星丸ごとの施設と言えば説明としては十分だろう。
アメリアは一目でこのステーションが目的の場所であると理解出来た。
というかステーションと同規模サイズの『巨大なカブとオークションらしさ溢れるギャベルが描かれた看板』が掲げられていればアメリアでなくとも誰だって目的の場所だとわかるだろう。
「アニキ。通信入れますがどうしますか?」
ガーネットの言葉にジャックは椅子から立ち上がりもせず答える。
「好きにしな。ああいや、仔細任せる」
そう言って、ジャックはドヤ顔をした後ちらちらとアメリアの方に目を向けて来る。
アメリアはそれが昨日ジャックに貸してもらったヴォルフの部屋に置いてあったコミックス『宇宙船グリーンウッド』の艦長の決め台詞であるとすぐに理解する。
そしておそらく、貸した漫画の感想をアメリアに聞きたいのだろうという事も。
ヴォルフの苦笑を横目に、アメリアは微笑を浮かべる。
何となくだが、ジャックとの付き合い方がわかってきた。
少年と男友達を足して少し距離を開ければ、それが大体適切な距離感となるだろう。
「私としては変に熱すぎる主人公よりも敵キャラの方が好みだったかな。中盤で出てきたジブ隊とか」
「ほぅ……良い目をしているな」
やたらと気取った言葉だが、ジャックの瞳はキラッキラの子供のそれ。
漫画に出て来るジブ隊という敵戦闘部隊は元海賊の傭兵だからジャックが好きな理由もまた簡単に想像付いた。
「ははっ。仲が良くてなりよりっすよ。ええ……本当に……」
ガーネットはねっとりとどこか影のある表情で微笑んだ後、ステーションの方に交信要請を出す。
その後すぐ連絡が帰って来て、音声交信が開始された。
『こちらベジロット・オークションセンターです。本日はどの様な御用でしょうか? 今の時間でしたら参加、見学どちらでも受け付け可能ですが』
ちらっと、ガーネットはジャックの方に目を向ける。
ジャックは顎だけで『任せる』という合図をガーネットに送る。
今度はガーネットはアメリアの方に目を向けてきた。
「えと、私が話せば良い感じ?」
「そっすね。アメリアちゃんが主役だし」
一瞬主役という言葉にぴくっと反応するジャックだが、すぐまた席に座り直した。
「えっと、私の野菜が売られる事になりましたのでその様子を見に……」
「なるほど。何かそれを証明できる物はありますか? 生体コードや通信記録といった本人照明、もしくはお名前と野菜の情報をお願いします」
「じゃあ生体コードで。――」
アメリアは複数桁になるコードを口頭で伝えていく。
生体コードとは声紋、瞳孔紋といった情報とリンクしている英数入り交じりの暗号コードの様な物である。
他の誰も使えず、例えクローンであっても機能しない。
この時代においてでも複製が出来ない、完璧なる自己証明方法である。
ただし普及率はそう高くない。
取得するのに膨大な時間と予算と知識が必要となり、その上普通に生きる分にはなくて困る事が全くない。
実際この中で持っているのはアメリアただ一人である。
逆説的に言えば、これを持っているという事は普通の家庭でなくやんごとなき存在という事の証明でもあった。
『識別認証完了。失礼しましたアメリアお嬢様』
音声ガイドAIの代わり映えにルビィとガーネットは驚く。
確かに、怪しい部分はあった。
従者を連れていて明らかに育ちが良く、それでいて並大抵ではない知識量を納めている事。
だが、今回ので確信に至る。
あまり客に差を付けない商売用受付AIがわざわざお嬢様と付ける程の家柄。
即ち、アメリアの立場は普通の金持ちではなくもっと上の特別階級であると。
とは言え、一々気にする必要はないとも彼女達は思っている。
こんな場所にいる辺りで色々複雑な事情があるのは察せるし、アメリア自身家柄は気にしない方が嬉しそうにしている様な気もする。
だから、ルビィとガーネットはアメリアから言い出さない限りその部分に触れない事に決めた。
尚ジャックはそんな事実に気付いてさえいない。
そして例え気づいていても、そんな事気にもしない。
そういう部分だけ取り出してみれば大物の様にさえ見えてくる様な気がしないでもなかった。
『それで、アメリアお嬢様の目的はどの様な物でしょうか? オークションの様子を見たいのでしたら貴賓室の方を用意させて頂きますが……』
「出来たら普通の参加でお願い。買う予定はないけど野菜のオークションという物を経験してみたいわ」
『わかりましたアメリア様。アメリア様の作品が売りに出される午後第二部の参加をチームとして承認します。またお節介ではあるかもしれませんが、少々急いだ方が良いと提案させて頂きます』
「どうして?」
『既に午後第二部は開始されております。予定ではおよそ一時間程でアメリアお嬢様の出した品の発表になります』
アメリアは現在時刻と今後の予定を考える。
ここからステーションへの入場申請してドッグに入り、オークションに参加する。
それの時間を考えると本当にギリギリだった。
「ドッグへの申請お願いして良い?」
『わかりました。交信終了と同時に大型宙船のドッグを解放します。ポインター照射をお願いします』
AIが交信を切断した直後に、ステーション下部に大きな穴が開いた。
巨大な球体にでかでかと大きなカブとハンマーの看板が描かれるステーション。
『ベジロット・オークションセンター』はそんな外見をしていた。
球体は銀一色。
だが、良く見ると模様の様な物が描かれている。
正八角形に近い形状の模様。
ハニカム構造に近いがサイズは均一ではない。
その中でも一番大きな八角形が口の様に開いていた。
その開いた場所の傍まで、ルビィは海賊船を移動させる。
そして艦体先頭からポインターと呼ばれるトラクタービーム、簡単に言うと物体引き寄せビームを八角形の穴の中に飛ばす。
緑色の光が艦体前方から放たれ、ぐにゃりと曲がって八角形の中に吸い込まれていった。
このビームはただの光でまだ何の力もなく、実際船を収納した場合のシミュレートをしているだけである。
何らかの問題があり収容不能であれば、ビームの色が緑から赤に変化する。
逆に問題がなければ、ビームの色が緑から青に変化して実際にトラクタービームが発動し、重量差でこちらが吸い寄せられ収納されるまで完全自動操縦に切り替わる。
ビームの色が青になったのを見て、ルビィとガーネットは肩の力をそっと抜き、船の操作を相手に預けた。
ありがとうございました。




