遭遇戦6
先程までの戦闘がまるでなかったかの様に互いの艦は動きを止め、沈黙を続ける。
沈黙……というよりも、どちらも動く事が出来ないと呼ぶ方が正しいが。
自称『タキオンハウル重力子砲』。
その影響によって。
「ガーネット。ダメージ調査。急いで」
ガーネットはアメリアの命令で半ばショートした電子機器の影響を目まぐるしい勢いで確認していった。
「物理的ダメージは大丈夫。だけど電子系列の一時的ショートが頻発してるっす」
「影響は?」
「機動面での問題はなし。操舵関連もオールグリーン。ただし一部兵装が使用不能。影響は不明。アメリアちゃんどうするっすか?」
「それなら放置で良いわ。次、敵艦の被害状況を確認して」
「……損傷軽微。見た限り幾つかの武装が落ちた程度っす。こちらの影響で逆算すると、操舵系が一時的ショートしたのかなと思うっす」
「あちらさんのシールドの状況は?」
「そんなの調べようがないっすよ」
「計算式とデータを送るわ。推定で良いから確認お願い」
「……アメリアちゃん。貴女一体どこで何を学んだの?」
「計算込みの演習ってさ……学校でも結構な頻度でやらされるのよ……」
アメリアはそう呟き、溜息を吐く。
あれはおそらく学校内ベストスリーに入る位不人気の授業だっただろう。
艦長となった想定で行う艦隊戦の模擬訓練。
ただ戦い合う訳ではない。
学校で行うのは、TRPGの様にボードとコマを使い、自分達で弾道からエネルギー状況、被害想定まで全てを計算式にて用意しながら交互に動くという物だった。
とにかく計算に計算を重ねるそれは模擬戦というよりも数学のテストに近い。
コマを動かしながらダメージを測定し、動きを測定し、シールドを測定し、そして戦いを重ねる。
少しでも早く計算し、少しでも多くの未来を予測し、少しでも多く自分のコマを生存させ勝利させる。
試合として成立させる為に無限に計算をし続けなければならないあれは、卓上演習と呼ぶよりは頭脳シャトルランと呼ぶ方が近い位だった。
実際終わった後はほとんど動いてないにも関わらず、皆汗だくの中肩で息をしている。
ぶっ倒れる人さえもいた。
はっきり言ってアメリアも好きな授業ではなかったが……その有用性は今確かに実感していた。
「アメリアちゃんも大変だったのね……。んん? アメリアちゃん。一応計算出来たけどこれ本当?」
「何かミスがあった?」
「いや……平均点じゃなくて上下点でも多角的に数値出したけど、どの結果からもシールド完全消失ってあるんだけど?」
「多分あってるわ。シールド視認出来ないし」
アメリアはあっけらかんとそう答えた。
宇宙戦闘においてシールドは最重要な要素となる。
これがなければどんな攻撃でも一撃で落ち、逆に僅かであってもシールドさえあれば多くの攻撃を一度は凌ぐ事が出来る。
シールドとは、戦艦の実質的な体力。
つまり、シールドの消失はそのまま撃沈と言っても決して過言ではないという事である。
だから普通互いに攻撃しシールドを削り合うのだが……この頓珍漢兵器はそんな物全て無視をしてシールドをあっさり剥ぎ取った。
欠点塗れで完璧という言葉とは程遠く、使い辛い事この上ないが、それでもリターンは確かにある。
直撃させずともこれだけの効果があり、直撃させた場合はシールドの上から相手の電子機器の大半を破壊出来るのだから。
正しく浪漫武器である。
射程にチャージ、予備動作諸々と欠点だらけであり、おそらく実戦では使い物にならないが。
とは言え、今回はそれが運良く通用したと思って良いだろう。
クオンティク粒子はただ傍を通過しただけでも衝撃で空間を歪曲させる。
その余波にて敵艦体のシールドを砕きそのエネルギーを消失させた。
そして同時に、先程自陣営にも効果があった様に、電気系統にもショートが発生する程の極大の負荷を与える。
大型艦でかつ対策を取っていたこちらでさえ被害を免れる事はなかったという事は、高速機動艦であり物理装甲面を軽視するあちらの電子系統は今頃ズタボロとなっていると予想出来る。
彼らが再びシールドを張り直り戦闘可能となるまでに、最短でも五分は時間がかかるとアメリアは推測していた。
そもそもの話だが、元々宙船はシールドは全部剥がされた後の事はあまり考えられていない。
シールドが剥がれる場合イコール死であるからだ。
つまりシールドを失った相手は、実質的な敗北状態と言っても過言ではない。
「それで、これからどうするのアメリアちゃん」
ルビィの言葉にアメリアは次の指令を返した。
「ガーネット、降伏勧告を出して。本当は艦長の声を届けるのが習わしなんだけど……」
ジャックは颯爽と立ち上がった。
「――ふっ。俺の力が必要か? ならば貸しても良いだろう。この、キャプテンである俺――」
「いや、相手を怒らせそうだから別に良い」
アメリアの言葉を聞き、すん……と席に座り直した。
「じゃ、メッセージ形式で良い?」
ガーネットの言葉にアメリアは頷く。
「うん。前振りも何もない機械けた文章で宜しく。何かあちらさん本当に怒ってるみたいだから」
「そうね。……送ったわ。届いてるかわからないけど……」
「届いてるよ。中枢が壊れる程強いショックは与えてないし壊れてたら自動的に救命信号が出るから。それで……返事は?」
「あの……ありません」
「……後十秒待つ。…………来た?」
ガーネットは首を横に振った。
届いていないという事はない。
という事は……。
「まじか……。そんなに恨んでるのか。本当に誰も心当たりない?」
ジャック、ルビィ、ガーネットの三人は揃って首を横に振った。
「そう……。降伏してくれたら楽なんだけどなぁ。こっちも見た目程余力ないし。じゃあ、Bプランかぁ……」
「それはどんなプラン?」
ルビィはそう尋ねた。
「ん? メッセージ送るだけだよ。今から五分以内に動けば攻撃する。そう言いながら全力で逃げる。五分あれば十分離脱出来るでしょ」
「なるほど。じゃ、メッセージ送るわ。機械的な文章で良いでしょ?」
ガーネットの質問にアメリアは頷く。
「うん。何をしても怒るだろうけど少しでも怒らせない様にしないとね。……これで動かれたら流石にもう……」
「その時は撃墜するしかないわよ流石に……。メッセ飛ばしたわ。どうする?」
「きんきゅーりだーつ。進路は任せる―」
「あいさー。お疲れ様っすアメリアちゃん」
ルビィはへろへろ声のアメリアの声を聞いてから、そのまま艦を走らせた。
結局最後まで、彼らは誰も相手の事を思い出さなかった。
ルビィにナンパして撃沈し、そのあげくにジャックと比べられた情けない男の事など、誰も覚えてさえいなかった。
流石にシールドなしでおっかけてくる程相手も無謀ではなかったらしく、そのまま彼らは安全圏まで離脱する。
安全圏であると確認出来た瞬間、アメリアは盛大に溜息を吐いた。
「疲れたー!」
そう叫び床に寝っ転がるアメリアに、ルビィは微笑みかけた。
「本当にお疲れ様! 平然としてたけど、流石に大型艦単独コントロールは大変だったみたい……ってちょ、アメリアちゃん! 鼻から……」
「へ?」
首を傾げたその瞬間、ぽたりと床に一滴の血。
それが自分の鼻からだとアメリアが気づく前に、ヴォルフがアメリアを抱きかかえた。
「すぐに休ませます」
「そうして頂戴! 私達もキリがついたら行くから!」
「何かあったらすぐ連絡頂戴!」
ルビィとガーネットは叫ぶ様にヴォルフに伝える。
ヴォルフは頷いた後、アメリアを抱きかかえ部屋に連れて行く。
どうして皆こんな切羽詰まっているのか、何で鬼気迫る表情なのか、ただの鼻血でなんでこんな事になっているのかアメリアには全く理由がわからなかった。
ありがとうございました。




