遭遇戦5
ただ回避行動を繰り返し、レーザーでミサイルやキャノンを打ち落とし、必死に生き延びようとする。
しかも、大きく動きもせずその場で。
まるで虫が苦しみ藻掻いている様にしか見えないその様は、敵艦から見れば相当に気分の良い物であっただろう。
そんな時間が、一時間も続いた。
一応程度なのだが、アメリアは艦隊戦術も学んでいる。
貴族学校であった為、そう言う軍の将校が受け持つ内容も学ぶ範囲の中であったからだ。
とは言え、所詮は学生のお勉強範囲。
そこまで優れた物ではない。
なまくらの付け焼刃でどうにかなるなんて思い上がりは流石にアメリアも持っていない。
もし真っ当な方法でこの場を切りぬける様な指揮や戦術の才能があれば、学校の授業程度でその才を開かせる様な事があったなら、アメリアは次期侯爵の仲間入りをして兄姉と競う立場にいただろう。
優秀ではあっても、天才ではない。
確かに機械操作はとんでもない力だが、それ以外のアメリアはただの秀才に過ぎなかった。
一般人から見たら凄いかもしれないが、侯爵を継ぐにはあまりにも才が足りなさ過ぎた。
だから……アメリアに出来る事はありもしない勝てる戦術を持って来る事ではない。
ただ、上手に手札を使う事だけが、アメリアが勝算を見出せる唯一の手段だった。
一時間。
必死にジェネレーターをいじくりまわし、エネルギーを節約し溜め続け、ようやく、目途が立った。
この状況を脱出できる目途が。
「ルビィ。作戦変更よ。まっすぐ突っ込んで」
「……は? いや、あっちの方が早いよアメリアちゃん」
「わかってる。大丈夫。これまで蓄えた余剰エネルギーをブーストに回すから一時的にだけど追いつける。……あっちが緊急離脱したらその時はその時でこっちも逃げよう」
ルビィは幾つもの否定要素を頭に思い浮かべる。
そんな無茶をすればブーストにダメージが行くのではないか。
それなら最初から逃げたら良いんじゃないか。
だけど、それらの言葉を飲み込んだ。
アメリアに託す。
そんなジャックの言葉は、全てより優先される事であった。
「考えがあるんだね?」
「うん」
「了解」
ルビィの返事と同時に、アメリアはわかりやすく正面レーダーに扇状の赤色の範囲を設定した。
その範囲内に敵を入れろと一目でわかる様に。
「ブースト始動……突撃!」
ルビィは叫び、ただただまっすぐ突っ込んでいく。
アメリアの強制介入によるブースト増強。
それによって本来の全速力と比べ四割程速度が増していた。
その分、正面からのGも抑えきれない物となって皆に襲い掛かってくる。
この辺りの重力制御に振る程のエネルギー余裕は、この船にはなかった。
押しつぶされそうな中、アメリアは敵の動きを観察する。
都合が良い事に相手はこっちを舐めきっており、逃げるどころか回避さえしていなかった。
「……五十、……四十……あと三十秒で範囲内に入るわアメリアちゃん」
「ん」
「………………十………五、四、三、二、一、範囲内に入ったわ! どうするの!?」
アメリアは目を閉じ、ブーストが焼け付かない様ゆっくりと速度を落としながらその準備を始めた。
「ターゲットロック。充填率十五パーセント。艦体ロック。逆噴射準備……」
「ちょ、ちょっとアメリアちゃん! もしかしてアレ使うの!?」
ガーネットはおろおろとした様子で、信じられない様子で叫ぶ。
ガーネットの取り乱しようで、ルビィも思い出した。
この船に、何が搭載されていたかを。
「きゃぷてーん」
甘えるような声で、アメリアは尋ねた。
「何だ新入り。俺にどうして欲しい?」
「こういうのはさ、やっぱり艦長が命じてこそ恰好良いと思うのよね。私」
「悪いが意味がわからん。して欲しい事はもっとわかりやすく」
「艦長席にふんぞり返り、一言やれと恰好良く言って欲しいのよ。雰囲気ってのはさ、こういう時とーっても大切でしょ?」
その言葉とさっきのガーネットの言葉で、ジャックはピンときて……今までより一層邪悪で人相の悪い笑みを見せた。
普段は察しが悪いジャックだが、事浪漫には敏感であった。
「ふふ……ふふふ! そうか、アレを使うんだな! 良いだろう!」
ジャックは席について、一番恰好が尽きそうな恰好でふんぞり返った。
「準備は良いか?」
「ええ、いつでも」
「そうか……ならば……。構え!」
ジャックの叫びと共に、艦体の前方が開閉される。
木造の擬態、その奥から鋼が露出し……そして中から、巨大な砲塔が生える様に伸びた。
その不格好ながら威圧的な姿は、まるで海賊船をそのまま大砲に改造した様な、そんな姿だった。
これがこの船に仕込まれていたびっくりどっきり兵器。
『クオンティク・ハイブラスト・キャノン』
クオンティック粒子を活用し生み出されたエネルギーの結晶を超超巨大な砲塔から放つ文字通りの決戦兵器である。
一応ディレクトリデータでの名称はそうなっているが……ジャックの事だからたぶん、変わっているだろう。
「構えよーし。何時でも良いですよキャプテン」
「よくやった新入り。では――我らの咆哮を銀河に轟かせろ『タキオンハウル重力子砲』――発射!」
タキオンでも咆哮でも重力子でもないけど、アメリアは気にしない事にして、その機能を解放した。
直後、砲塔からまっすぐ細いケーブルの様な細い光の線が宙に伸び突き進む。
まるでレーザーサイトかの様に。
これ自体には何の意味も効果もない。
ただの、射出するエネルギーが膨大過ぎて漏れ出した余波に過ぎない。
「あれ? 直撃コースにないわよアメリアちゃん」
ガーネットはそう尋ねた。
その光の線は、敵艦には絶対に当たらないとわかる程ズレていた。
「もしかして殺したい程憎んでいる相手だった?」
「そう聞くって事は、わざと?」
「うん」
「アメリアちゃんって良い子ね本当に」
「ありがとうございます」
その言葉の直後だった。
それが、射出されたのは。
それは、恐ろしい程に静かな光であった。
チュイっと、何かがかすっと様な音が鳴り、海賊船は地震の様な荒れ狂う衝撃に襲われノイズ音が艦内全域に走る。
それだけの質量を、そのエネルギーは持っていた。
エネルギーは光の筋に従って進み、敵艦体の側面を通過する。
この砲身から離れたらとは思えない位細い光が、傍を通っただけ。
たったそれだけの事。
だが、アメリアの目論見が叶うには十分過ぎる威力だった。
ありがとうございました。




