遭遇戦4
アメリアは今、海賊船と完全に同期している。
それは一心同体となったと言っても良い。
船のメインコンピューターがそのままアメリアに置き換わったとも。
最低限の掌握ではなく、完全制御。
それは文字通り船を好きに出来るという事に他ならない。
手足を操る様に船を動かす事も、短期間息を止める様に酸素供給を停止する事さえも。
だから当然、この海賊船に内臓された火器も全て把握する事が出来ていた。
何なら把握するだけでなく、兵装を一門位なら即席で製造し増設する事さえもアメリアは出来る。
メンテドッグや簡易リペアドローンをちょっと本来以外の用途で使えば良い。
普通はそんな事よほど熟練の作業員がいなければ出来ないが、その位、アメリアのしている事はとんでもない事であった。
そしてこの海賊船の武器スペック確認した結果わかった事は……やっぱりジャックは馬鹿だという事だった。
短距離用のビームとキャノンが十八門ずつ。
それと『切札』の使いにくい上にエネルギーをべらぼうに消費する実用性皆無のびっくりどっきりジョークウェポン。
兵装はこれだけ。
大型艦体のメリットである積載を生かした長距離兵装は一切なく、むしろ短距離用兵装が何故か更にショートレンジに改造されてさえいる。
ドッグファイトでもするつもりかという位の極端さだ。
いや、たぶんだが、戦うつもりはあまりないのだろう。
本当に火の粉を払いのける為の、そういう意図が見えてさえ来る。
びっくりどっきり兵器については、間違いなく趣味だろう。
船と一体になっている、あまりにも馬鹿過ぎる兵器。
こんなもんいつ使うんだと本気で思う位馬鹿。
下手すればこれを使いたいからこの船にした可能性さえある。
何故ならそのジョークウェポンは、切札と呼んでも問題ない程派手で恰好良いから。
「とりあえず……悪いけど冷凍庫とか含めて全部の電気止めるね。少しでもジェネレーターこっちに回したいから! 大丈夫! 冷凍した物が解ける前にはどう転んでも終わってるから!」
そう言ってから、生命維持や艦体維持に関わるもの以外全てをオフにしてエネルギーをより戦闘に集中させていく。
その後行うのは、兵装の管理と廃棄。
キャノン砲とビーム十四門ずつへのエネルギー供給を止め、残り四門ずつだけを稼働状態とし弾丸の輸送ルートを再構築。
続いてビームを二門ずつ接続し同時操作可能にした後エネルギー供給を最低に変更、変わりに射程と速度、操作性を向上させミサイル等を打ち落とす対火器兵装に換装。
その後……。
「ヴォルフ! 右席火器管制!」
叫びと同時に、火器操作の右席のモニターと椅子が下に消え、変わりにグローブの様な操作端末が現れた。
「使い方は?」
「手を突っ込んで、握って、振る! ボクシングみたいなもんよ!」
「なるほど。俺でも出来そうですね」
「出来そうなのを『作った』のよ。頼むわよあんたのその目を戦力として期待してるんだから。んでガーネット。エネルギーをこれだけ送るからやりくり宜しく」
「りょうか――いや、ちょっと待ってほしいっす! 操縦は余ってるのに兵装への供給少なすぎますって! もっとそっちに割り振って……」
「そこを何とかやりくりして。出来るでしょ!?」
「きつすぎるっす!」
「じゃあ頑張って!」
「うわーん! 思ったよりスパルタだこの子ー!」
泣きながらも、ガーネットはアメリアの希望に答え最低限以下のエネルギーをミリ操作もロスしない様あっちこっちにとやりくりを始めた。
「あの、アメリアさん。操縦の方もう少し削っても……」
「駄目」
「でも……」
「逆よルビィ。もっと操作して避けて欲しいの。極力シールドが削れない様、これがギリギリになる位。貴女が回避すればするほど船員の寿命は延びる。アニキの活路に繋がる。一発も当たらないって位の気合でやって頂戴」
当たった場合と緊急回避した場合を比べたら、例えブースト全開にしたとしても後者の方がエネルギーロスは少ない。
更にシールドの発生、再生成というのはジェネレーターの容量を大きく削る動作でありジェネレーターやシールド生成器への負荷もでかい。
つまり、故障等のトラブルを誘発するリスクが増すという事である。
だからこそ、回避に特化する為ルビィには操舵に集中してもらっている。
現時点でも大型艦とは思えない程すいすい避けているが。
――たぶん、一切オートを使わないからだろうな。
アメリアはそう推測した。
攻撃を避ける為の緊急回避という物は、本来事前に用意したプログラムを交えながら行う。
緊急時にいちいちバーニアの出力調整やら角度修正やら逆噴射やらを一つ一つ主導で行うのは負担が大きいからだ。
その手間を、ルビィとガーネットは当たり前の様にあっさり、しかも阿吽の呼吸でやってのける。
だから毎回人力であり、相手の教育回路にも火器管制担当官にも偏差修正を許さない。
これこそが完全人力ならではの長所であり、軍用艦がオートを極力使わない理由でもあった。
軍用艦の場合は、緊急回避専用の操縦、オペレーター担当を複数人用意するが。
「……新入りさんよ。俺にも何か出来る事はあるかい?」
皆がせこせこ働いてる事に罪悪感を覚えたのだろう。
ジャックはアメリアにそう尋ねた。
いや、ボクシングの様に手を振って相手のキャノンを打ち落としているヴォルフを見て羨ましいと思ったのかもしれない。
「あら? 艦長の座を温める仕事はもう良いの?」
「ああ――。とうに飽きてるし、俺は何時でも乾いてるからな」
「んじゃ、何が出来る?」
「――何?」
「何が出来る? 何が得意? ああ、何でも良いよ。好きな事でも何でも。どんな事でも得意と思える事を教えてくれたら」
「……て」
「て?」
「手先は、割と器用な方だと思う……」
「あ、そう。他には?」
「……げ、げぇむ」
ジャックのその声は、震えているかのように弱弱しかった。
「りょーかい! じゃ、こんな感じで」
そういって左方の火器操作席をアメリアは変更する。
モニターと標準、トリガーなど全部取っ払い、そこにあるのはトラックボールとボタン二つ、巨大なモニター。
そして――ハンドガンの形をした操作端末。
まさしく、それはまるでゲームの様だった。
「トリガーでレーザー、キャノン両方を迎撃出来る超短距離レーザー。トラックボールで画面操作、移動。ボタンはキャノン。マーキングされた的を撃ち落とすだけの簡単なゲームよ。質問は?」
「いや……あんたとなら、良いゲーセン巡りが出来そうだ。今度一緒に行こうぜ?」
「二人っきりじゃないなら喜んで」
「ああ、俺の腕前を披露してやるよ」
「それは今お願いするわ」
「任せろ」
そう言葉にしてから、ジャックはハンドガンを持ち、いかにもなギャングらしさをたっぷり出しながら恰好つけながら、トリガーを絞る。
恰好つけた割には当たらないというか、恰好付けている割には当たっているというか……そんな感じの、微量よりはマシというまあまあな感じの成果を出しながら。
ありがとうございました。




