遭遇戦3
それは、きっと優しさからだろう。
ルビィとガーネット、彼女達二人はきっと、ジャックの役に立つ為にこれらの艦内要求技能を覚えた。
たった二人だけで船を操縦しきれるなんてあり得ない程優秀な人材に育った。
アメリアは軽くだが、彼女達の過去を聞いている。
絶望的な状況に陥った彼女達がジャックに救われた。
彼女達にとってジャックは救世主そのものであった。
だからこそ、彼女達には決定的に足りない物がある。
ジャックは、その見た目と口の割には攻撃的な事を好まない。
悪を自称するが彼の悪は本物のそれとは違い、憧れに等しい。
そんなジャックの指示に彼女達は従い、ジャックの願いを聞き続けた。
それ故にこの海賊船は圧倒的に攻撃に弱く、そして彼女達も操作関連の技能は高くとも戦術面はその実力と剥離する程に何も出来ない。
だからこうなった。
きっと普段から逃走を中心した作戦を立てていたのだろう。
その逃走主体の作成の対策を完璧に取られてしまい、逃げる事も出来なって、今はただシールドを削られ死を待つだけという状況に陥った。
実際不利な事に違いはない。
絶望的な状況にも近い。
だけど、出来る事はまだある。
諦めるにはまだまだ早すぎる。
選択肢も余力もまだ残っている。
少なくとも、今ならまだ幾つかの手段を選択する事が出来た。
彼女達やジャックに出来ずちも、アメリアならば……。
「という訳で私が全権貰う訳だけど不満とかあります?」
アメリアは一応、ルビィとガーネットにそう尋ねた。
「ないっす」
「アニキを尊重するなら何も」
二人は手を止めず、慌ただしく計器、操縦桿を叩きながら当たり前の様にそう言葉にした。
「ですよね。じゃあ……失礼します」
そう言葉にし、アメリアは目を閉じて、部屋の中心部の床に手を振れた。
「アメリアちゃん何を……いや、まさか……」
データを見ていたガーネットは一足早くそれに気づき、目を丸くする。
その直後……アメリアが触れていた床から、八角形の円柱がせり上がった。
人よりも大きく、複雑な模様が描かれたそれはこの艦の中枢と直接繋がる専用操作パネル。
ただし、それを使う事は難しい。
それは、脳波コントロールという才能を持つ者だけが使う事を許される操作端末であった。
「……何をしてるんだアメリアは?」
ジャックは気取った格好のまま、円柱に触れるアメリアを見ながら尋ねた。
「この船のコントロールを取得してるんですよ。直接操作する為に」
「そうか。……恰好良いな、何か」
ふわっとした感想しか、ジャックにはない。
どれだけの事をしているのか理解していないし、例え理解したとしても俺の部下凄いの言葉だけで終わらせる。
そういう男だからだ。
「いやいやいやいや! そんな事無理でしょ!? 脳波コントロールが可能だからと言って、たった一人でこの規模のシステム制御なんて――」
「出来ますよ」
ヴォルフは、迷わず断言した。
「ええ。お嬢様なら出来ます。絶対に」
その言葉の直後、アラートが消え円柱が光り輝く。
アメリアの髪がキラキラと輝きながらふわりと浮き、まるでその周辺にだけ風が巡っているかの様に。
それは接続が完了したサインだった。
つまり……この船とアメリアの脳が直接リンク状態に入った。
アメリアの脳にこの海賊船のデータから外部の状況まで、全て事細かにダイレクトに流れ込んで来る。
宙船の内部データがそのまま脳に送り込まれるというの人間にとっては大きな負荷であり、頭痛や吐き気、酷い場合には気絶まであり得る。
当然それは規模が巨大になる程大きい。
だから、こういった大型の艦の場合一人でコントールをする事は絶対に行わない。
最低限の『中枢』だけでも三人程度は人員が必要であり、全体ならば十人以上は欲しい。
当然だが、そんな物を一人で抱え込んだら脳が焼き切れる。
そのはずなのに――。
「艦内全制御完全接続維持……。最低限の操作系列だけでじゃなく物理的な制御権からインデックス管理まで……。そんな馬鹿な……電脳でさえこんな事は……」
ガーネットはただただ、驚く事しか出来なかった。
「あはは……出来たら内緒にしてね。家族とも約束してるの」
そう言って、アメリアは苦笑してみせた。
アメリアの異常性とも言える機械適正について家族が知ったのは、生まれて間もない時だった。
別に大した事はない。
ただ、彼女は生まれて間もない時に脳波コントロールで周囲の家電を勝手に操作した。
眠たい時に子守歌を勝手に流し、人を呼びたい時にはその人に連絡を飛ばし、退屈を感じたら壊れるまで色々な機械をぐちゃぐちゃにして……。
彼女にとってそれは動かし辛い本物の手足よりも容易く動く手足でしかなかった。
まあ、すぐ彼女の周りの家電関連は脳波感知機能全てを省き、用心の為スタンドアロン式に切り替えられたが。
赤子が自由に機械を操作出来るというのは誰がどう考えても大事故にしか繋がらないから当然の事である。
赤子が脳波コントロールを行う事自体は、決して不可能な事ではない。
脳波コントロールは才能による影響が非常に強いからだ。
実際似たような事例も確かに幾つか存在している。
だけど、アメリアと同じ事が起きたという例は有史以降一度もない。
一度も直接機械に触れていないのにダイレクトにリンク登録を行った事に加え、ユーザー登録のプロテクトがかけられていたのに無視してリンクし、自在に操作した。
この全てが揃ったという事例は、赤子どころか大人でさえあり得ない事であった。
確かに不可能ではない。
だが、直接触れもせずに、ユーザー登録さえしていないシステムに干渉するという事は、美術館で一番注目の絵画を警備が厳重な中怪盗が正面から盗むのと同じ様な物である。
それを、アメリアは物心つかない赤子の頃に容易く行った。
そしてある程度大きくなってもその操作能力は一切衰える事がなかった為、父サーザントはアメリアにそれを隠す様に伝えた。
兄や姉にならば、持っていても問題なかった。
政治的能力がある彼らならばそれを生かす道もあった。
だけど、アメリアでは駄目だ。
この侯爵家という生まれにおいて彼女の性格は、少々以上に普通過ぎた。
彼女が持つ武器にしてはその力は、己や家を滅ぼす程に大きすぎた。
そんな彼女だからだろう。
大型宇宙船の全機能を単独で管理するなんて無茶な芸当をしていながら、彼女は全く負担を感じていない。
これだけの大型の船なのだから当然、そのデータは脳内に収まらない程膨大である。
だけど、アメリアには何の問題もない。
難しい教科書を流し読みする様に、見たい部分だけ見ていけば良いだけの話でしかないからだ。
必要な部分以外を本棚から引き出す感覚と言っても良いだろう。
暴威と呼んで良い程のデータの嵐の中でそれが出来る事こそが彼女の才能の証左であった。
「それじゃ、ここからは艦長代理としてお手伝いさんアメリアが指示を取るわ! ルビィ、ガーネット、協力よろしくね!」
そう、明るく元気な声でアメリアは叫ぶ。
落ち込んだ空気を切り替え、周囲を鼓舞する為に。
「お嬢様。俺は何をすれば……」
静かに立ち上がり、第一の従者として見本を示そうとして……。
「しばらく座ってて」
ヴォルフはすんと席に座った。
「じゃ、俺はどうすれば良い?」
「今の内にトイレいってらっしゃい」
ジャックはすんとした顔で、席を立った。
「ルビィとガーネットにはモニターにて直で指示を飛ばすからよろしく」
「了解。……私は操舵に集中ね」
ルビィはそう言葉にした。
「私の方は……計測だけで良いの?」
「ガーネットには後でバーニアからシールド、火器も兼ねてのエネルギー調整に苦労してもらう予定だから今は余力残しといて」
「ん。了解。……何とかなるんだよね?」
ガーネットは不安そうな声で、そう尋ねた。
「何とかするのよ!」
そう、アメリアは叫ぶ様に返した。
無理で無謀な事はわかっている。
それでもと、彼女は抗う為にここに立っている。
負けるつもりで立っている訳ではなかった。
というよりも、ルビィとガーネット揃って天才的な実力の癖に戦術方面があまりにも欠け過ぎてるから自分が音頭を取るしかなかったとも言えた。
ありがとうございました。




