遭遇戦1
黒が基調ではあるものの、明るい色合いが混ざり随分とこ洒落た服装のそれは、厳密に言えばメイド服と呼ぶに適さないだろう。
むしろコスプレに近い。
少なくとも、アメリアがいた屋敷でこんな服装をした従者を見れば、まず真っ先に頭の方を疑う。
フリルが追加され、スカートが若干短く、それでいてどこか可憐。
それは良くも悪くもファッション性が追加された物。
そんなメイド服を着てながら、アメリアははにかむ様に微笑んでいた。
「――――」
ヴォルフは、無言だった。
茫然とした様子でアメリアを見つめるヴォルフの目には一切の感情が込められていないかの様に、虚無を映していた。
「……流石に、その反応はちょっと傷付く。そんなに似合わなかった?」
しゅーんと落ち込む様子のアメリアを見て、ヴォルフは慌てて首を横に振った。
「い、いえそんな事はないですよ。ただ……その……えと、俺にとってお嬢様は尊き方ですので、ちょっとギャップについていけないだけで……」
「堅物ヴォルフの異名はこんなんなっても変わらないのねぇ……。似合わない事は、ないのよね?」
「えと、……はい。失礼かもしれませんが、良くお似合いです」
「そか。だったらよかった。ふふ、これならヴォルフと同僚みたいかもね」
「勘弁してください」
困った顔のヴォルフを見て、アメリアはニコニコと笑ってみせる。
その困った顔が、何故かとても面白かった。
ルビィとガーネットはにまにましながらも、何も言わず彼らを暖かく見守った。
着替えている時アメリアはヴォルフがどう見るのか気にしていた事も、ヴォルフがアメリアに明らかに見惚れていた事も、何も彼女達は言葉にしない。
無粋な真似なんてせず、馬に蹴られない様にただ静かにその甘酸っぱい空気を見守るだけだった。
「さて、私は何を覚えようかな。メイドらしく給仕でも――」
話す途中、飛んでいきそうな程大きく船体が揺れた。
まるで、大海原の中波で転覆しそうな程大きく。
ヴォルフは飛びそうなアメリアを慌て抱きかかえた。
「あ、ありがとヴォルフ」
「いえ。何がありましたか教えて下さい!」
叫ぶヴォルフを横目に、ルビィは急ぎガーネットの席の隣に座った。
「仲良し作戦とかじゃないわよね?」
隣にだけ聞こえる様にの小声のルビィに、ガーネットは首を横に振る。
そしてすぐ、緊急アラートを発令し赤いランプを点滅させた。
「すいませんアニキ! 緊急回避の事後報告をします」
「構わん。何があった?」
「攻撃を察知したっす! モニター映します!」
ガーネットはおそらく威嚇射撃であろう長距離キャノンをぶっぱなして来た方角の映像を側面モニターに表示する。
そこにはこちらよりも二回り以上小さい、推定中型規模の銀色の宙船が、こちらに正面を向けていた。
「迷彩強化型高速艦と推定されます。どうしますアニキ?」
ルビィの言葉にガーネットは帽子をかぶり直した。
「野郎の意図が知りたい。文章は任せる」
「はいっす。貴艦の目的を答えよ。とだけ送っておきました。……返信来ました! 映像通信です。どうしますかアニキ?」
「面白れぇじゃねぇか。映像、出せ」
ジャックの言葉に合わせ、側面のモニターが外の映像から通信映像に切り替わると、やたら人相の悪い男の顔が映し出された。
「久しぶりだなぁ。ヘッポコ野郎。こんな場所で会えるとは思わなかったぜぇ」
歪で邪悪な笑みを浮かべ、男はそう口にする。
その眼には、明確なまでの怒りと恨みが籠っていた。
「……えと、誰? 何か因縁がある感じ?」
小声でアメリアはそう尋ねる様に呟く。
ジャックは小さく息を吐いてから、艦長席に浅く座り、足を組み両手を後頭部に回し寝転がる様な姿勢となった。
「……巡り合わせ……という奴だろうな」
「なぁに恰好付けてやがるんだ。弱虫泣き虫蛆虫ジャックが。へっ。粋がる事しか出来ねぇってか」
馬鹿にされてもジャックはまったく気にした様子を見せず、ただその映像の方に目を向けるだけだった。
「……悪いが、一つだけ言わせてくれ」
「何だよ。雑魚の癖に。命乞いでも――」
「あんた――誰だ?」
ジャックは真顔で、そう言葉にする。
男はきょとんとした顔を見せた後、まるでゆでだこの様に顔を真っ赤にした。
「この……また馬鹿にしてきやがって……ぶっ殺してやる! 攻撃準備!」
その言葉と同時に映像は途切れ、そしてすぐ緊急アラートが艦内に響いた。
「対象からの火器管制システムリンクを確認! アニキ!」
「……全て任せる」
「了解! 緊急離脱シーケンス開始! ジェネレーター最大出力! エネルギーは限界までシールドに回して!」
「ダミーをばらまくわ! ないよりマシでしょ!」
慌ただしいルビィとガーネットを他所に、ジャックと新入り達は何も出来ず、ただその場で座りシートベルト位しかする事がなかった。
ありがとうございました。




