だめになる海賊船
歓迎会という名前の軽食ジュースパーティーを経験したアメリアは、非常に悲しい事実に気が付く。
今住んでいる農業惑星よりも、この海賊船の方がずっとクオリティの高い生活が出来ていた――。
ジュース?
そんな物あそこにある訳がない。
お菓子?
ヴォルフが買いだめした僅かな物をちょびちょびなくならない様に楽しんむのが精々。
そもそもの話だが、当たり前の様に合成ではない肉が出てくる時点でもう比べる事さえ烏滸がましい。
後ついでに、ガーネットの淹れた紅茶はアメリアさえも美味しいと本気で思う程。
合成品ではない良質な天然茶葉を、完璧な温度、タイミングで淹れた物で元お嬢様的にも満点を出したい味だった。
アメリアが本気で従者に欲しいと、人生で二度目に思う位、ガーネットの紅茶は美味しかった。
「さて……そろそろ宴もお開きの時間だ。ガキは寝る時間だからな」
ジャックの言葉にアメリアはむっとした表情を浮かべた。
「流石にそこまで子供じゃありません」
「はっ。ガキが喚くな。とっとと休めば良いんだよ!」
アメリアはイラっとした気持ちを我慢しながら、ルビィの方に目を向けた。
「『部屋の準備とか風呂とか色々と忙しいだろ? 眠たくなる前にやっておきな』的な事をアニキは言いたいんだと思います」
「あー……うん。確かにそうね。じゃあ艦長。悪いけど……」
「おう。そいつも連れて部屋の準備をしておきな。……しっかり休むんだ。明日からはしっかりこき使ってやる」
「あいあいさー。それじゃ艦長。ガーネットさん。おやすみなさい」
「お休みっすアメリアさん!」
艦長席にふんぞり返るジャックと微笑むガーネットに見送られながら、アメリアとヴォルフはルビィに案内され廊下の方に出ていった。
「こっちがアメリアさんの部屋、あっちがヴォルフさんの部屋です」
廊下に挟んで向かい合わせの部屋を指差しながらルビィはそう伝えた。
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をするヴォルフに見習いアメリアもルビィに頭を下げた。
「いえいえ。部屋にある物は冷蔵庫でもシャワーでも何でも好きに使って下さって構いません。何か要望があれば明日その時に。朝食は七時から九時までの間交代しながら。何か質問ありますか?」
「いや、至れり尽くせりだなーって思う位で……」
「そりゃ、アニキっすからね」
「何だろう……わかる様でわからない……」
「ま、アニキの良さがわかるのは私達位のもんすから。じゃ、お二人ともおやすみなさいっす」
そう言ってルビィは立ち去ろうとして……ぴたっと足を止め、振り向いた。
「すいません言い忘れてました。アメリアさん。部屋の中にこの船の乗務員マニュアルを置いておきました。出来そうな仕事の項目を読んで学んでおいて欲しいです」
「ありがとう。早めに読んでおくわ。ヴォルフは……」
「大丈夫っす。アニキも苦手な事はさせませんから」
「うん。見てわかる。というか艦長がまず何もしていない」
「どしっとしてるのがアニキの仕事っすから。じゃ今度こそ本当におやすみなさいっす」
そう言って、ルビィは去って行った。
「んじゃヴォルフも、おやすみ」
「はい。おやすみなさいお嬢様。良い夢を」
そう言って、ヴォルフは自分の部屋に入っていく。
続いてアメリアも、その木造船っぽいデザインのドアを開き、中に入った。
まさかエアシャワーではなく普通のお湯が出るシャワーにバスタブまでついているなんて、アメリアは想像さえしていなかった。
おかげ様で予定の何倍も時間を使ってしまった。
その分、心地よい時間を堪能できたが。
シャンプー、リンス、ボディソープ全部安物じゃないのは逆に準備が良すぎてちょっと怖い。
ただまあ、久方ぶりに、髪に艶が出た様な気がするから乙女的には文句など付けられないが。
シャワーを出た後で冷蔵庫に入った水を取り、キャップを開き口に含む。
痛いと感じる程の冷たさが、涙が出そうな程心地よかった。
そのまま、ふかふかのソファに腰を下ろしオートドライヤーのボタンを押して雑誌を手に取る。
雑誌は今年流行しそうな宝石とその産地惑星について。
普段アメリアが読まない物ではあるが、久方ぶりの気楽な読書はなかなかに楽しかった。
アッという間にふわりとした仕上がりで髪が渇き、雑誌を読み終わった後マニュアルの方に手を伸ばす。
この海賊船は外見の割に仕組みは非常にシンプルで、他の船と大差ない。
その内容は学園で学んだ範囲内の事が大半であった為、医療や戦闘要員の様なアメリアにはどうしても難しそうな物を除けば、概ねどこでも出来そうだった。
まあそれはそれとして、出来るからと言って自分が役に立てるかははなはだ疑問だが。
彼女達二人の練度と技量にパネルの速度は尋常な物ではなかった。
脳波コントロールにての船の中枢とリンクし完全同調したとしても、あそこまでのマルチタスクは望めないだろう。
ほとんど……というか完全に人間業ではない。
技量という意味でなら彼女達の上は幾らでも居るが、熟しているタスク量で彼女達を超える存在をアメリアは見た事がない。
「……欲しいけど、アレは無理だなぁ」
あの黒づくめの男に向ける彼女達の好意と尊敬。
それを考えると、とてもではないが引き抜けない。
それに対し残念という気持ちを抱くと同時に、言いようもない喜びもあった。
それだけ尊敬出来る人と巡り会えた。
それだけ思える異性の傍に居る事が出来る。
アメリアにはまだそう言う事は良くわからない。
だけど、それはきっと、とても素敵な事。
だから、少しだけ残念だけど、嬉しいとアメリアは感じていた。
マニュアルの自分が出来そうな範囲を七割程読んだ後、アメリアはふわぁと一つ大きな欠伸をする。
シャワーが心地よくて、ソファが心地よくて、この部屋が心地よくて……。
だからだろう。
急激な睡魔にアメリアは襲われた。
「子供扱いするなって言ったばっかなのに……。いや、子供扱いにムキになってる時点で、私は子供か」
苦笑しながら、アメリアは本を閉じベッドの中に入りこむ。
やっぱり、ベッドもまた恐ろしく心地良い物だった。
この海賊船に入ってから全てが心地良すぎて、アメリアは自分がダメ人間になりそうに感じていた。
あの昔の日々、当たり前の様に誰かを怒鳴っていた時の様に。
「そうならない様に……引き締めないと。これ以上、嫌われない為に……」
戒める為そう呟くも睡魔には勝てず、そのままアメリアは夢さえみない深い睡眠の中に潜りこんだ。
ありがとうございました。




