団員募集中
そのまま、彼ら三人はまるで何事もなかったかのように帰ろうとする。
そして、アメリアもまたそれを当たり前の様に見送っていた。
この状況に、ヴォルフは正直文句を言いたい。
しかも何か向こうが良い事してこっちが名残惜しそうに引き止めてる感な雰囲気がそれとなくして腹が立つ。
もう一発位ぶん殴っても良いんじゃないだろうか。
そう考えるヴォルフと異なり、アメリアはどこか楽し気だった。
「という訳で、近場の座標データはこれに入ってるわ」
そう言いながら、アメリアは、例の男にチップを手渡しする。
「ふっ。世話になったな」
男は恰好つけながら、それを受け取った。
ヴォルフは喉から出かかった『本当にな』という言葉を必死に飲み込んだ。
「別に良いけど、もう悪い事しちゃ駄目だよ?」
アメリアは苦笑いを浮かべながらそう言葉にした。
「悪いがそいつは約束出来ねぇ。俺は俺として生きる。それが俺の生き様だ」
「そうっすよ! 今まで一度も悪い事とやらに成功してませんけど、アニキは最高にクールな悪の男なんすから!」
「そうっすよ! 悪ってなんか恰好良い位しか考えてませんし困っているお年寄りを見捨てられないけど最高の悪党なんすから!」
相変わらず褒めているのか貶しているのかわからない後ろからの援護射撃を聞いて、男は笑った。
「そんな褒めるな。それによガーネット。困っているおじいさんおばあさんを助けるのは、善悪以前に人としてのルールだろ?」
キリっとした顔でそう言葉にする。
いい加減、アメリアもヴォルフも理解出来た。
これが、ただの馬鹿だと。
男は、マントを翻し背を向け自らの船に向いた。
「さあ行くぞお前ら。俺達の栄光はこの先だ……」
「あいっすアニキ!」
「アニキ! いやキャプテン! あっしらをどこまでもお供させて下さい!」
「当然だ。お前らは俺の右腕と左腕だからな」
キリっとした口調で、そう言葉にした。
「あー、その前に……ちょっと良いかな?」
アメリアは静かに、苦笑しながら手を上げた。
「何だ。礼ならするさ。俺が栄光を手にした後でな」
「そうっす! アニキは義理堅いんすから! でもお宝が手に入るビジョンは見えないんで宝払いじゃなくて余裕が出来たらすぐあっしらが適当にお礼は選んでおきます!」
ルビィはそう言葉にした。
「はいっす! ニュービーファーマーさんみたいなんで遺伝子関連の機材とそのバージョンアップチップ。それと十年周囲の野菜の相場データを贈るつもりっすからもうしばらく待っててほしいっす」
ガーネットの言葉にアメリアは驚いた。
「いや、別にお礼をして欲しいって訳じゃ……」
「くだんねぇ事言ってんじゃねぇよ。恩讐こそが俺の生き様。恩には恩を、恨みには恨みを。それが誰にも否定出来ない、この俺の生き様だ」
「そうっすよ。ちなみにヴォルフさんを別に恨んではないんで安心してください。アニキの負け星は文字通り星の数程あるんで」
「むしろ丁寧に傷つけない様に倒してくれて助かったっす。ヴォルフさんの力だったらアニキがアニ/キになってたかもしれないんで」
わいやわいや言い合う彼らに、アメリアは困った顔をした。
「いや、お礼とかそうじゃなくて……名前を教えてほしいなって……。ルビィさんとガーネットさんの名前は聞いたけど、貴方の名前を聞いてなかったから……」
男は、気取ったポーズを取りわざわざマントを翻した。
「ふっ。俺か。俺の名前が気になるか?」
「え? あ、うん。気にはなるかな」
「そうか。ならば聞かせてやる。我が魂の名を。我が名はキ――」
その恰好つけたポーズから放たれる決め台詞は、激しい暴風と轟音でかき消された。
驚く程タイミング良く、見慣れた宙船が着陸する。
その船は、テイカーの物だった。
ほんの僅か目を離した隙に、ガーネットは黒ずくめの男の前に庇う様に立ち、ルビィはどこから出したのか光線銃を構えていた。
それを見て、ヴォルフは自分がいかに道化であったかを思い知らされる。
彼女達の動きが見えていなかったその事実に打ちのめされて。
油断していた。
させられていた。
男が無能であるから、それに信従する彼女達も大した事ないと無意識で思い込んでいた。
だが、あの動きは無能のソレではない。
ルビィが銃を向くその仕草さえ、ヴォルフは見えなかったのだから。
動きが見えなかった。
それはつまり、もしルビィに撃たれていれば避けられなかったという事になる。
それ以前に、ルビィが銃を隠し持っていた事さえヴォルフには気付けなかった。
ただの素人ではない。
暗殺者か元軍属かわからないが、海賊という言葉が似合い程度には真っ当な経歴でないのは間違いないだろう。
だけど、それ以上にヴォルフがショックを受けたのは、ガーネットの動きの方だった。
ガーネットはただ、男を庇っただけ。
だけど、ガーネットが黒ずくめの男を庇う速度は、ヴォルフがアメリアを庇うよりもずっと早かった。
アメリアを護る為だけにこれまで生きて来た、ヴォルフよりも。
「……ど、どうしたのヴォルフ? そんな険しい顔をして……」
不安そうな声で、アメリアはヴォルフの袖を引っ張った。
見知らぬ誰かが来たと思った彼らなら、警戒するのはわかる。
だけどテイカーが来たのにそんな怒り狂った犬みたいな顔をする理由が、アメリアにはわからなかった。
「……何でもありません。安心して下さい皆さん。彼は俺の知人です」
ヴォルフは屈辱を飲み越し、表情をいつもの無表情に戻した。
「右腕左腕、お前らも落ち着けよ。あんなファンシーな外見のロケットだぜ? 俺達の敵な訳ないだろ」
男はそう、当たり前の様に言葉にしていつもの微笑を浮かべる。
だけどちょっと可愛らしい宙船が気になってそわそわとかわくわくしていた。
それでも男と違い彼女達の警戒は解け切ず、銃こそしまったものの男を庇う様に立ち続けていた。
少ししてから、テイカーのロケットの方から握りこぶし位の大きさをした丸い何かが投擲される。
それをヴォルフは当たり前の様に素手でキャッチをした。
「ヴォルフ。それは何?」
「手紙ですね。重しに石を使った」
「危なくない?」
「俺だから大丈夫ですよ。それよりこれを。どうやら俺じゃなくてお嬢様への手紙らしいので」
「あら珍しい」
きょとんとした顔で、しわくちゃになった手紙をアメリアはヴォルフから受け取り……そして目を通す。
ぶっきらぼうでかつあまり綺麗な字ではないそれに書かれていたのは、あの星鉄人参についての事だった。
結論で言えば、あの星鉄人参は通常の市場に回す許可は下りなかった。
調査結果は確かに安全で問題なしと出たけれど、何の資格も経歴もない未経験者が製作した物であるという不安要素に加え、巨大化の原因が完全に未知という前代未聞であるという事。
付け加えてあの特大サイズの星鉄人参は一般市場受けしないという理由により、そう結論付けられた。
星鉄人参の魅力は断面図の星型にある。
スープの中に浮かぶ星型の人参というお洒落さこそが売りの命。
だから、その断面図が筋肉質な男のふともも位の太さになってしまっている人参に一般的魅力は乏しい。
食事をする際の常識的なサイズにカットするなら、そもそも普通の人参を事足りる。
つまり……人気が出ない事が確定してしまっていた。
だけど、それは逆に言えば一般的でない特殊な需要がある市場ならば、売る事も出来るし需要も期待出来るという事にもなる。
つまるところ……。
「オークション……で、出るんだって」
「えっと、お嬢様。何がでしょうか?」
「私達が作った星鉄人参。変わり種だから変わった形式で売られるって」
「なるほど」
「それで、ヴォルフだけならオークション見に行かないかって連絡も来てるわ。その間代わりの護衛を置くからって」
「論外ですね。お嬢様を置いて俺だけ行くとか」
「んーでも、テイカーさんの船に私が乗るのは駄目でしょ? だったらヴォルフだけでも見て来たらどう?」
「いや……でも……」
少しだけ、その言葉にヴォルフはぐらっとくる。
何だかんだ言っても、アメリアの手騒動を除けばあの時も楽しかったし、自分達が育てた物がどう評価されるのか見たいという想いもある。
だけど、それを言えばアメリアの方がそのはずだ。
あれだけ苦心して、アメリアは愛情を注いだ。
追い詰められて、苦しみながらであっても……いや、だからこそ、アレはアメリアにとって大切な想い出となっている。
それを見たいのは一番はアメリアのはずだ。
それを自分だけが見に行くなんてのは、従者としてとてもできる事ではなかった。
「……ここにお嬢様が乗れる宙船があれば……」
そうヴォルフが呟いた後……。
「ん?」
「んん?」
アメリアとヴォルフの二人は、顔を見合わせ頭にはてなマークを浮かべる。
そして……遠くでどどーんと鎮座している海賊船と、黒ずくめの男の姿を見た。
全員からの視線を感じ、男は小さな声でルビィに声をかけた。
「おい。あいつらどうして俺にあんな熱烈な視線を送ってんだ? 俺の帽子か服か、それとも胸ポケットに仕込んだロイヤルキングカブトフィギュアに惚れたのかい?」
「それはないです。ただ、アニキの船に乗って移動したいみたいですね。オークションとやらに行く為に」
それを聞いて、男はふっと何時もの乾いた笑いを見せた。
「破滅と混沌の坩堝。血と闇に満ちた欲深き世界か……。全く……金持ちってのは何時だって罪深い生物だ。……くくっ。あんたらもそう思うだろ? そう……まるで俺の為に用意されたかの様な世界、全くもって極上のシチュエーションだ」
男は、自分の世界に入ってそんな事を口にする。
ヴォルフは必死に、その言葉を翻訳しようと試みる。
だが、どれだけ考えてもまるで意味がわからなかった。
一方アメリアは……。
「ルビィ。彼は何て言ってるの?」
素直に翻訳係にお願いした。
「『オークション会場ってのに行ってみたいなぁちらっちらっ』って感じですね。ちなみに船に乗るのは全然歓迎っすよ! うちたった三人だけなんで部屋も腐る程あるし」
「あの規模を三人だけで!?」
アメリアは目を丸くして驚いた。
テイカーの様な小型船ではなく、その海賊船は昔アメリアが所有していた宙船と同規模の船。
銀河群を駆け巡り、超銀河を空間転移で行き来しその外の世界を目指せる、本当の意味での宇宙船。
その大きさと機能から推測すると、百人規模の工員がいてもおかしくない。
少なくとも、十数人は乗員が必要だろう。
にもかかわらず三人というのは、あまりにもあり得ない事だった。
「これでもうちらそれなりに優秀なんて。ああ……ただうちの船に乗る時は嫌が応でもアニキの部下になるんでそれが嫌なら諦めて下さい」
にっこりと笑って、ルビィはそう言葉にして……。
「あいつは右足だな。だが女を足にするのは道義に反する。なら……右目……いや、他にもっと恰好良いのは……」
「ああ、駄目っすね。もうアニキの脳内じゃ貴方達は部下になった様です。諦めて下さい」
ガーネットは楽しそうにアメリアにそう告げる。
アメリアとヴォルフは何とも言えない気持ちが滲み出て、そのまま互いの顔を見て……その顔が思ったよりも情けない物だったから、両者とも、つい噴き出し笑ってしまった。
ありがとうございました。




