金とか黒とか至高とか言いたいだけ
「……俺は一体……何をやっているんだろうか……」
気を失った黒ずくめの男をベッドで介護しながら、ヴォルフは悩んだ。
どうしてこんな事をしているのか、どうしてこんな馬鹿をわざわざアメリアが作ってくれた自分の部屋に招いて面倒みないといけないのか。
待ったくもって不条理である。
ついでに言えば女性二人の海賊……海賊? 的な奴らはアメリアの部屋にいる。
従者として侵略者一緒にというのは納得したくない事この上なかったのだが、命じられては仕方がない。
まあ、侵略者と呼ぶ程危険な相手にはとても見えなかったが。
後、馬鹿過ぎて毒気を抜かれているから若干安心しているというのもあるにはあった。
とは言え油断しきっているかと言えばそんな事はない。
彼女達にはアメリアのナノマシンの事を教えていない。
もしも不埒な真似でもしよう物なら、即その肉体は壁の染みにジョブチェンジをするだろう。
なにせ筋力だけならヴォルフ以上なのだから。
それでも、見ず知らずの侵略者と主を一緒にする事にヴォルフは強い抵抗を覚えて……。
そんな事を考えていると……男は、目を覚ました。
「……やっと起きたか」
あきれ顔でヴォルフがそう言うと、男は上半身を起こし、片足の膝を立ててなんか気取ったポーズを取って黄昏だした。
「……何……してんだ?」
「男って奴はな、何でも自分の思い通りにならないって事を知ってる奴の事を言うのさ。お前だってわかるだろ?」
「いや、さっぱりわからん」
ヴォルフはしかめっ面を浮かべる。
言葉は通じているのに意味がわからないという経験自体は、実はそれなりに経験している。
いきなり御家自慢を始めたり、社交界で何の脈絡もなくディスって来たり。
貴族にはそんな奴がごまんといるからだ。
だが、それでも、ここまで意味がわからない奴をヴォルフは見た事がなかった。
「なああんた。一つ質問だが……」
「好物なら……金色の輝きを持ち漆黒を僕にせし至高だ」
「知らんしわからんしどうでも良い。そうじゃなくて……なんであんた服の内ポケットにこんな物を入れてたんだ?」
介抱の途中危険物の確認も兼ね漁った物を、ヴォルフは彼に返却する。
キラキラ光る宝石……みたいなプラスチックの玩具とクワガタムシの玩具と小さな鉄のコマ。
一応という事で漁った結果出て来たのがこれだけだった為、ヴォルフは本当に混乱する事しか出来なかった。
「ふっ。わからないのか?」
「まるでわからん」
「男ってのはな、男心をいつまでも胸に秘めておくもんだからさ」
「そうか。まあ、良くわからんがもう少し休んでてくれ……」
何故か極度の疲労を覚えたヴォルフは酷く疲れた顔のまま、自分の部屋から立ち去った。
そして、ヴォルフは馬鹿を置いたままアメリアの部屋をノックした。
「どう……ぞっ……ぐすっ」
その泣き声は、紛れもなく我が主。
ヴォルフは叩きつける様乱暴に扉を開いた。
「お嬢様! 何が――」
そして部屋に入ったヴォルフが見たのは……『アニキ超絶伝説』と書かれたホワイトボードと指示棒を持つ二人の海賊と、それの前で泣きながら頷いでいるアメリアの図だった。
「……アニキ……恰好良い。男の中の男だ……」
アメリアの口からそんな信じられない言葉を聞き、ヴォルフは目を丸くした。
「でしょでしょ!? アニキはパーフェクトな男なんだから!」
赤い髪の、ルビィと呼ばれた女はそう叫ぶ。
「アニキの良さは辺境にだって轟くんだから!」
蒼い髪の、ガーネットと呼ばれた女もそれに重ねる。
彼女達にとってあの良くわからん男は教祖様みたいな物らしい。
そして、恐ろしい事にアメリアにさえ布教出来る程その話術は匠な物だそうだ。
「……あ、ヴォルフ。どうだった? そっちの人」
涙をぬぐい、けろっとした顔でそう尋ねて来る主を見てヴォルフは静かに安堵の息を吐く。
どうやら本格的に洗脳はされていない様だ。
「目覚めたので呼びに来ました」
がたっと音を立て、彼女達二人は立ち上がった。
「こうしちゃいられねぇ! アニキを慰めないと!」
「きっと気雑多らしい事をしながら誤魔化してるけどめちゃくちゃ落ち込んでるはずよ! 待っててくださいアニキ!」
そう叫び飛び出そうとする二人に、ヴォルフは尋ねた。
「あのさ、ちょっと良いか?」
意外な程冷静に、彼女達は立ち止まり振り向いた。
「はい、なんですか? あ、アニキの介抱ありがとうございます」
ルビィはそう言って、ぺこりと頭を下げて来た。
「いや、それはお嬢様の命令だから良いけど……一つ、聞きたい。あいつの……」
その時、ヴォルフ名前を聞こうかと思った。
タイミングを逃し聞きそびれた、アレの名前を。
思ったのだけれど……好奇心が負けてしまった。
「あいつの好物ってさ、何だ?」
「へ? 正気に戻って下さい! アニキは確かにイケメンっすけど中身残念っすよ!?」
ガーネットが慌てた顔で叫んだ。
「知ってる。というかあんたらがソレを言うのか……。そうじゃなくてただの好奇心だ。用意するつもりもないしどうもせん」
「そうっすか。ちなみにアニキの好物はプリンっすね」
ガーネットがそれだけ答え、彼女達はヴォルフの部屋に突撃する。
恐ろしくどうでも良い事を知ったヴォルフは……へたりとその場に座り込んだ。
「……本当に、無駄な事を聞いてしまった」
何とも言えない脱力感と下らない事に時間を使った後悔。
虚無的徒労感が、ヴォルフの中に渦巻いていた。
ありがとうございました。




