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我儘令嬢と飼い犬執事  作者: あらまき
3-我儘令嬢と何か変な奴ら

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靡く旗は男の生き様とかなんとかかんとか

 広大なる宇宙(ソラ)――。

 その悠久の中浮かぶその船は、まるで全ての銀河は己の物であるかのように悠々と佇んでいた。


 その中にいる彼……船乗りである彼は椅子に座り、ニヒルな笑みを浮かべていた。

 帽子からブーツまで全身黒ずくめの、とてもカタギとは思えない凶悪な人相をした男。

 

 男は、ブランデーグラスを傾けながらモニターを眺めていた。

「くっくっ。まさかこんな場所で極上の獲物が見つかるとはな……」

 モニターに映し出された極小惑星、そこに住まう人を見て、彼は呟いた。

「そうですねアニキ! まさか迷った先で普通に人に会えるとは思いませんでしたね!」

 後ろの席に座る二人組の美女、その片割れがニコニコしながらそう叫ぶ。

 男は、ふっと乾いた笑いを見せた。

「迷子じゃねぇよ。俺達は……この時代という荒波に漂流してるに過ぎないのさ」

「流石はアニキ! 意味がわからないけどかっけーっす!」

 もう片割れの美女の言葉に、アニキと呼ばれる男は笑う。

「あんまり褒めるな。照れるからな」

「そうっすね! アニキは色白だから目立ちますもんね」

 男はボディケアクリームを取り出し二人に見せた。

「安心しな。いつでも日焼け対策はばっちりだ」

「流石っす!」

「まじリスペっす!」

 そう、美女たちは外見に似合わず三下口調を繰り返す。

 しかもまるで馬鹿にしているかの様に。


 だけど、彼女達がその眼に宿している感情は、間違えようがない程、確かな尊敬であった。


「さあ行くぞ俺の右腕、左腕。仕事の時間だ」

「そうっすね! 二人しか部下いないから必然的に右腕と左腕になりますもんね!」

「女を足蹴にする趣味はないからな」

「流石フェミニストの鏡! その優しさ五臓六腑に染み渡るっす!」

「ふっ。人として当然の事を言ってるだけに過ぎん。さあ、勝利の美酒を飲みに行くぞ」

「うぃっす! アニキ下戸だからそれもただの麦茶ですけどね!」

「麦茶は……美味いからな!」

「うぃっす! 私も麦茶大好きっす!」

「夏には麦茶! ビールより麦茶! これ世界の常識っすもんね!」


 男はニヒルに笑った後、麦茶が入っていたであろうグラスを置いて立ち上がる。

 その様子を見て彼女達二人が彼にマントを手渡した。

 特に意味もない、裏地が赤い黒マントを。


 男はマントを羽織った後わざとらしくばさっと靡かせて、叫んだ。

「……さあ、出向だ! 帆を上げろ! 錨を降ろせ! シルバーシャーク海賊団の出航だ!」

「うぃっす! その意味がわからないけど恰好良さそうな言葉を並べるアニキ最高にかっけーっす!」

 そう言って褒めた後、彼女達は席に座り直し宙船の設定を変更し、目的の極小惑星の方に進める。


 この、宙船の操作が全くわからない男に変わって。




 迫り来る宙船を見て……アメリアは絶句した。

 宙船には多くの種類がある。

 アメリアの元々の船の様に流線形をした横広の物や、テイカーの様な小型ロケット。

 UFO型と言われる物やゴテゴテの武装をした外観の物。

 性能だけでなく趣味嗜好により様々。


 多彩な船が当たり前である時代であっても、その宙船の外見は完全に常軌を逸していた。


 その形は……文字通りの船であった。

 宙ではなく海を渡る方の。


 しかも今では博物館に行かなければ見れない様な、大昔の物。

 人類が宙から離れられず大地に縛れていたはるか彼方の木製の船、所謂ガレー船と呼ばれる物。

 それに近い形状を模していた。


 まあ当然木製な訳がないだろうが。

 ただの木の船じゃあ宇宙空間なんて耐えられる訳がないし、もし耐える様な特別な木材を使って船を作っているのなら、それは色々な意味で本物の馬鹿である。


 そう考えたら企業や国のPRの為こんな馬鹿げた外見にする奴はいるかもしれない。

 だけど、それならこんな人もいない辺鄙な場所にはこないだろうが。


 もう一つ、変な事がある。

 その宙船には、旗が付けられていた。

 髑髏のマークが描かれた不気味な旗が。


「何あのセンスの悪い旗……縁起悪い……」

 ぽつりとアメリアは呟いた。

「あれは……海賊旗ですね」

 ヴォルフは答えた。

「かいぞくき? 何それ?」

「俺も詳しくは知りません。コミックの知識なんで。ただ……大昔はああやって海賊だってアピールしていたそうです」

「何で? 何でわざわざ自分が悪者だって示すの?」

 それはアメリアには理解出来ない事だった。


 悲しい事に、この宇宙時代においても海賊……まあ宇宙海賊という物は存在する。

 略奪を行う馬鹿はどこにだっている。


 だけどそいつらは皆普通の船に偽装する。 

 そりゃそうだ。

 あからさまに派手な船なら近寄った瞬間に逃げる。

 実際、武装が多い軍の船にはよほどの事がない限り他の船は近寄って来ない。


 そんな中で、わざわざ『俺は危険なんだぞ』と獲物を警戒をさせるなんて、略奪をするのに不適格な事をするのか本当に意味がわからなかった。


「まあ……俺も良くわかりません。でも……コミックの通りでしたら……」

「だったら?」

「たぶん……浪漫です」

「えぇ……良くわからないわ……」

 アメリアは、その船を見ながらそう呟く。

 欠片も恰好良いと思えなかった。


 ヴォルフは少し恰好良いと思ってしまっているが。




 海賊船は驚く程静かに、それでいて畑を潰さない様少し離れた場所に着陸する。

 そしてその中から……彼らは現れた。


 全身を黒に染めた青年。

 帽子は大きめで目元まで被り、長袖のスーツに似た服装にマントと肌の露出はほとんどない。

 見えているのは、その凶悪そうな目つき位。

 ギラギラした、悪人面の目つきの男はわざわざ船の甲板に立ち、マントを靡かせなせ二人を見下ろしていた。

「……ふっ」

 渇いた笑いと共に男は地上目掛け跳び、すたっと着地した――と同時に滑ってすっ転んだ。

 つるっという擬音さえ聞こえそうな程綺麗にこけ、とびたーんなんて擬音が聞こえそうな綺麗に脇腹を叩きつけていた。

 男は転んだまま立ち上がる事なく、ぷるぷると震えながら脇腹を抑えていた。


「あ、アニキ―! 畜生! やりやがったなあいつら! 自爆しただけな気がしますけどアニキが惨めだから見なかった事にしよう! ……だから普通に下から降りましょうって言ったのに……」

「不味いぞ。アニキはさっき冷たい麦茶を飲んでいた。ただでさえ冷えやすいぽんぽんを傷めてしまう……」

「急いでアニキを助けに行くぞ!」

 女性二人は、甲板から軽やかに飛びアニキと呼ぶ黒ずくめの男の傍に駆け寄る。

 そして脇腹をさすったりホッカイロを渡したりと世話を焼きだした。


「……あー……ヴォルフ。どうしよう?」

「どうしましょうね。本当に……」

 渇いた瞳を向けながら、ヴォルフはそう答えた。




 ぷるぷるしているアニキと呼ばれる男が態勢を立て直すのに五分程の時間を要した。

 身だしなみを整え、埃を落とし、カイロをしっかりポケットの奥に入れてからポケットに手を入れながら、男はアメリア達の方に歩いて来た。


 そして……。

「俺がお前らにとっての死神となるかそうじゃないか……それはおまえりゃ――」

 男は言葉を区切り……口を抑え震えていた。

「お前ら! ちょっと待ってろ。アニキが必死に考えた格好台詞を渾身のタイミングで噛んでしまったから!」

「そうそう! こんな日の為にノートに沢山書き込んで必死に考えた最高の決め台詞を失敗して落ち込んで涙目になってるから少しだけ待ってろよ!」

 二人の女性が庇っているのか貶しているのか、アメリアには良くわからなかった。


「違う……これは……舌を噛んで痛かっただけだ。決して失敗して落ち込んで泣いた訳じゃ……ない」

「流石アニキ。鋼メンタル!」

「あっしらはわかってましたよ! アニキが悔しくてやせ我慢をしている事さえ隠しているって! 大丈夫ですぜアニキ! さあ、もう一回どうぞ!」


 男は小さく溜息を吐き、帽子をくいっと動かし、再度決め顔を作った。


「俺がお前らにとっての死神となるのかそうじゃないか、それはお前ら次第だ」


「き、決まったー! 流石アニキ! 失敗してもくじけない! 正しく主人公っす!」

「一点取られても三点を取り返す。海賊界のハットトリック男!」

 やんややんやと褒められて、男はまんざらでもない顔をしていた。


「あのー……それで、どの様な御用でしょうか?」

 アメリアの言葉に、男はふっと乾いた笑いを見せた。

「今言った通りだ」

「いや、さっぱりわかりません」

「……仕方がねぇな。ルビィ、説明してやれ」

 親指を向けられた二人の女性の片割れ、髪の赤い方が頷いた。

「了解っす! あっしらは宇宙海賊シルバーシャーク海賊団。正式名称は『ジャック・ザ・シルバー=シャーク海賊団』ですけどまあ割ところころ変わるんでお構いなく。それでまよ……漂流していた時ここを見つけた。さあ、お宝を寄越しな! ……とアニキはおっしゃってます」

「……いや、そんな事言ってた?」

「はい。言ってましたね」

「そか……うん。ちなみにお宝って何? ここにはそんな物何もないけど」

「え!? アニキ! ここには絶対お宝がある! 俺の勘はまちがっちゃいないって言ってたけどどうなんですかアニキ!?」

 ルビィの言葉に男はふっと笑い、帽子を動かし顔を隠す。

 彼女達にはその仕草が理解出来た。


 これは、断言した事が間違っていたから恥ずかしがっているのだと。


「アニキ! 『こんな場所に若い男と女だけ。くせぇ、こりゃあ何かあるな』と言ってたアニキ! どうしますか!?」

「『俺達は海賊だ。情けなんていらん。必要なのは、奪うという漆黒の意思だけだ』なんて悪役ムーブかましてたアニキどうしますか!?」

 二人から言われ、アニキはぷるぷると震えていた。

 まるで、いじめられているかの様に。


 だけどしばらくしてから、男は自信を取り戻したのか帽子を上げて顔を出し、マントをばっと翻した。

「騒ぐな。ルビィ、ガーネット。俺は宝があるとは言ったが、それは何も形があるもんだけじゃないって事だ」

「何と……じゃあアニキ。アニキの求める宝ってのは……」

「ああ……。そいつだ。そこの女だ。明らかな貴族の外見。こいつは……こいつは……」

 どう見ても、男は言葉に詰まっていた。


 確かに、アメリアの顔は美形であり、この時代なら一目で貴族だとわかるだろう。

 だけど、今絶賛着ているものはクソダサジャージである。

 貴族らしさなんて欠片もないから、男は迷っていた。


「いや、そいつは顔は美形だ。侍らす価値がある。そうだろ? お前ら――」

「ないですね」

「駄目です」

 答える女性二人の目は、真剣(マジ)だった。

「……え?」

「駄目です」

「いや、でも……」

「アニキらしくないです。そんな事許されません。あんなジャージ着ている奴はアニキに相応しくありません」

「そうです。アニキはもっと近場に目を向けるべきです。顔よりも総合力で勝負した女性を侍らすべきです」

「そ、そうか……お前らがそういうなら。だったらそっちの男を――」

「駄目です」

「ないですね」

「……えっ」

「非生産的なのはもっとNGです」

「そんなアニキは解釈違いです。脳が焼かれます」

「いや……あの、一体何の……」

「とにかく駄目です」

「そう駄目です」

 男はいつも従順な二人に攻められる様言われ、おろおろとした後……。


「お前らが大切にしているもん教えろ。それを奪うから……」

 半泣きで、男はそんな事を口にした。

「あとついでに座標データとか教えてほしいっす!」

「最寄りの街とか教えてくれたら尚良しっす!」

 男をアシストしているのかそうじゃないのか良くわからない態度で、彼女達はそう言葉にする。


 アメリアとヴォルフは顔を合わせ……困った顔をした。


「……えっと……コメディアンさんじゃ……ないよね?」

「ふっ。喜劇とやらを飾るには、俺は少し悲し過ぎる。俺という血塗られた黒じゃあな」

 訳がわからないけれど、コメディアンじゃないつもりではあるらしい。

 アメリアには喜劇以外の何にも見えないが。


「えっと……今は姉も貰ったぬいぐるみが大切かな」

 馬鹿正直答えるアメリアの言葉を聞いて、男は顔を顰めた。

「……家族との絆か。確かに宝だ。だが……俺には価値のない物だ」

「アニキは他に何かないかとおっしゃってるぞ。形見とか家族のプレゼントとかそういう心の籠ってる奴以外で。アニキは繊細だからそう言うのを見ると委縮するから気を付けて欲しいっす!」

「あ、はい。ごめんなさい。……えと、ヴォルフ。何かある?」

 困惑しきった顔で、アメリアは尋ねた。

「答えるんですか?」

「うん。何か困ってるみたいだし……」

「いや……まあ、良いですが。そうですね……この前買ったハチミツと馬鹿みたいな量のカブの種とかどうです?」

「ハチミツはもう封切っちゃったし……カブの種かな? という訳でカブの種でどう? 凄く一杯あるよ」

「却下だ。流石に安すぎる。他にあるだろう」

「んー本とか困るしなぁ……」

「もう良い。俺達を舐めている事だけは理解した。その体に――いやその男の体に聞いてやる」

 男はマントをばっと投げ捨てた。


 ルビィはそっとマントを回収し拾ってこっそり嗅いで懐に仕舞った。


「さあ来な。俺達に出会った不幸というサプライズタイムを……あじゃわわせてやる」

 若干噛んだ事を誤魔化しながら、男はヴォルフに手をくいっと向け挑発する。

 ヴォルフはちらっとアメリアの方を見て、相手に聞こえない様小声で呟いた。

「どうします?」

「お好きにどうぞ。でも、あんまり悪い人には見えないから、手加減してあげて」

 静かにヴォルフは頷いた後、男の方にゆっくり歩み寄った。


「良い度胸だ。ガッツもある。どうだ? 俺の部下になる気は?」

「俺は生涯お嬢様の従者なんで」

「そうかい。そいつは残念だ。さ、好きに来な。教えてやるよ。実力の差って奴をな」

「では、失礼します」

 男の言葉を聞いてから、ヴォルフはゆっくりと構え……軽くジャブを放つ。

 その鋭いジャブを見ても、男の笑みは消えない。

 というか男にはそれが見えていなかった。

 男は気取った笑みを浮かべたまま、顔面にジャブの直撃をもらいその場に倒れこんだ。


 予想の何倍もあっけない終わりを前に、ヴォルフは男の言葉通り、実力の差を理解した。

 思わず『弱っ』と口に出してしまいそうな、実力の差を。


「あ、アニキ―! 虚弱体質で運動音痴で三日坊主なアニキ―!」

 ガーネットと呼ばれた蒼い髪の女性は、その場に倒れるアニキに叫び声をあげていた。


「何で戦いを挑んだのよ……」

 我慢出来ず、ついアメリアは突っ込んでしまった。

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