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我儘令嬢と飼い犬執事  作者: あらまき
3-我儘令嬢と何か変な奴ら

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だってお姉ちゃんだから

 頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群で、当たり前の様に社交性も高い。

 社交性に関しては……文句なしとは言えないが。


 そんな無数の長所を持ち、彼女を褒める言葉に限りはない。


 両親とも妹とも似つかわしくないワインレッドの髪にセクシーという言葉さえなお足りずもはやエロティックと呼ぶ方が近い様な恵まれたスタイル。

 人目で劣情を誘う程に色気が強いからといって品がないかと言われたそんな事はなく、社交界に出れば主役を差し置き華となる程度には気品にも溢れている。


 彼女の名前はリベルニアス・ファイアハート・レーヴェル。

 レーヴェル家二番目の子、つまりアメリアの姉である。


 リベルニアス……通称ベル。

 彼女の能力、その高さは普通の範疇ではない。

 優秀な長男がいるというのに侯爵家の跡継ぎに指定される位には。


 だが同時に、彼女程侯爵家を継ぐに相応しくない存在もいない。 

 そしてそれは、自他共に認めてられている。

 要するに……ベルもまたアメリア同様のプラスマイナスが激しい存在であった。


 とは言え……麗しき可憐な華でありながら我儘過ぎて結婚相手が見つからず、ようやくみつかった相手からは破談にされる。

 そんなアメリアと同様扱いするのは流石に失礼だろう。

 なにせ、ベルはそれ以上のキワモノであるのだから。


 ベルの姿を見てアメリアは顔を顰め、ヴォルフは苦虫をかみつぶした様な表情を浮かべる。

 どちらも、決して彼女の事が嫌いな訳ではない。


 良く出来た姉に嫉妬しているとか、次期侯爵にほぼ内定だから気に食わないとか、そういう気持ちもない。

 ちゃんと仲の良い姉妹だし、ヴォルフはベルの事をちゃんと尊敬だってしている。

 ただ……彼女は……。


 そうして、彼女は宙船より降りて、そしてアメリアはベルのその姿を正しく認識する。

 その……バニーガール姿を。


 大地に降りたその瞬間、零れそうな豊満な胸を揺らしながら、彼女はアメリア達の元に走る。

 走るというよりは……突撃と表現すべきだろう

 なにせ時速七十キロは出ているのだから。


 そしてヴォルフが止める間もなくベルはアメリアを抱きしめた。

「あめあめー! 久しぶりー! 大きくなったねー。可愛い可愛いあめあめ! お姉ちゃん寂しかったよー!」

 抱き着き、そして頬ずりをするベル。

 その様子に、アメリアはただただ困惑していた。

「お姉さま! ま、摩擦熱が! 頬が火傷しそうです!」

「あらごめんなさい! お姉ちゃん愛が溢れちゃったわ!」

 そう言ってからそっと離し、頭を撫でてから……ベルはヴォルフの方に目を向ける。

 その眼は……鷹の様に鋭くギラついていた。


 抱き着かれて摩擦熱を発生させられる!

 そう察したヴォルフはさっと距離を取り、ベルに警戒を向けた。

 だが、それは逆効果である。

 そんな風に警戒されればされる程、悪戯したくなるのがベルなのだから。


 ベルは警戒するヴォルフの様子なんて知らんとばかりにじりじりと距離を詰め――そして、突撃した。

「ぼるぼるもおひさー!」

 そしてぎゅっと抱き着こうとするものの、すかっとその手は空を切った。

「はい。お久しぶりですファイアハート様」

「ああん。そんな可愛くない名前じゃなくてベルってよんでぇー」

 ベルはくねくねしながらも驚く程俊敏に、ヴォルフとの距離を詰めようとする。

 それでもヴォルフは距離を取り、タックルを躱し、手を取られない様に逃げる。


 じりじりと牽制し合うその様子は、もはやレスリングとかの格闘技の一シーンの再現の様だった。

「よっ。ほっ。てあっ!」

 ベルはさっさっと軽快なフットワークでヴォルフに掴みかかるも、何度やってもその手はただ空を切り続ける。

 ヴォルフは紙一重で、ベルのその手を躱し続けていた。

 そのまま攻防は続き、どうしてそうなったのかヴォルフとベルは睨み合いながら反復横跳びが繰り返される。

 そして……先に息が切れたベルがギブアップした。


「腕をあげたわねぼるぼる……」

 肩で息をしながら、まるで強敵と書いて友と呼ぶみたいな雰囲気で爽やかな汗を流すベル。

 そんなベルに、ヴォルフはただただ困惑した表情を浮かべ続けた。

「そのぼるぼるはおやめ下さいファイアハート様。原形がなくなってもう誰の事かわからなくなっております」

「可愛いのに……まあ良いわ。その功績に免じて……」

「免じて?」

「私と一夜を共に過ごす権利を上げま――」

「結構です」

 ヴォルフは冷たく、そう言い放った。


 アメリアもヴォルフも、ベルの事が嫌いな訳ではない。

 アメリアは尊敬出来る姉だと思っているし、ヴォルフも素晴らしいお方であると知っている。

 だけど、それはそれとしてその極端かつ激しいボディタッチと下ネタを連発する趣味、そして破天荒な性格は少々心臓に悪く、非常に苦手な部類である事もまた確かだった。




 どうして、こんな辺鄙な場所にベルが来たのかわからないまま、時間は夜となる。

 ベルがくねくねとしながら下ネタと謎のボディタッチで何度も話は脱線した所為で。


 一番恐ろしいのは、ベルが故意的にはぐらかしているかどうかさえわからないという点にある。

 なにせ基本的にベルはいつもこんな感じだからだ。

 あの父親が次期侯爵に特別扱いで指名出来る程度に彼女は『政』『謀』に秀でている。

 だからはぐらかしている可能性も十分高いのだが、それ以上にあの性格である。


 わざとなのか、本気なのか、皆目見当もつかない。


 だから、今行っている行動もまた、アメリア達の理外の行動であった。

 その、何故か唐突にバーベキューを始めたそれは……理解するにはあまりにも深すぎた。


「という訳でお肉よあめあめ! でも好き嫌いせずお野菜もちゃんと食べるのよ! そうでないとお姉ちゃん激おこになっちゃからね!」

 びしっと叫びながら、大量の肉を焼きだすベル。

 いつもの様に、理由も理屈もさっぱりわからない。

 いや……アメリアは理解出来ないが、ヴォルフは何となく理解出来た。


 ベルの様子が昔出会った頃と全く同じという事は、つまりこれが何時もの事だという事。

 つまり、今回来たのも何の裏もなく、ただ妹に会いに来ただけだと。


「要するに……心配になったお嬢様の様子を見に来たのと遊びに来たのですね」

 ヴォルフの言葉ベルには……『え? 今更?』みたいな怪訝な表情を浮かべていた。

「私そう言わなかったっけ?」

「おっしゃってないですねぇ……」

「そうだったからしら。ま、お姉ちゃんが遊びに来たわよ! さ、あめあめもっと食べて! 次は何が良い? トウモロコシ? デザートはまだ後よ?」

 ぐいぐい来るベルにアメリアは何も言えず……会話から逃げる為に、アメリアは眼の前の肉を口にする。

 そして……。


「え? 何これ美味しい……」

 目を丸くし、驚いた。

「ふふん。どうよ? お姉ちゃんだってやれば出来るのです! ちなみにそれあめあめが今まで食べていたお肉より少し見劣りする位の物よ?」

「え? そうなの? こんなに美味しいのに?」

「そう。これが……バーベキューマジックなのです!」

「バーベキュー……マジック?」

「そう! バーベキューだとお肉が六割増しに、お野菜が八割増しに美味しくなるのです!」

 ふふんと自慢げにベルはそう言葉にした。

 どうやら、本気でそう思っているらしい。

「……そっか!」

 アメリアは美味しいから良いやと深く考えない事にする。

 無粋な真似は嫌だし、実際美味しい事にかわりはないのだから。


 ヴォルフはその横で無言のまま肉を山ほど食べ進めていた。

 ベルの焼く速度とアメリアの食べる速度を調整する様に。


 というかベルの焼く量も速度も異常な物で、ヴォルフが食べなかったらあっという間に肉の山が築かれる事となるだろう。


「ファイアハート様もお食べになられては?」

 速度を落とそうと画策しヴォルフはそう言葉にする。

 だがベルは微笑むだけだった。

「大丈夫よ。ちゃんと合間に食べてるから」

「……え? 食べてるんですか?」

「ええ。食べてるわよ。ヴォルフ君と同じかそれ以上位は。だから遠慮せずもっと食べて良いからね?」

 そう言って、食べる姿を欠片も見せずにっこり満面の笑み。


 この大量の肉焼きが善意なのか揶揄っているのか、それとも嫌味なのか。

 それさえもヴォルフには判断出来なかった。

ありがとうございました。

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