彼女は何時だって唐突で
さっぱりとしていて、爽快とさえ思えてくる。
ここまで来ればもはや敗北感さえ覚える事はなかった。
心地よい、完璧なるピュアホワイト、白一色。
ヴォルフはそれを見ながら、微笑み息を漏らした。
「いや……こんな事になるんですね。オセロって……」
盤面全て自分の黒ではなく、アメリアの駒の色である白で埋まった瞬間を見て腕を組み、しみじみとそう呟くヴォルフ。
文字通りのパーフェクトゲームに感嘆さえ覚えた
それに対しアメリアは終始申し訳なさそうな表情となっていた。
「ご、ごめんね? つい……」
「いえ、それは良いんです。これはこれで面白かったので。とは言え……これではゲームになりませんねぇ」
そう……対戦型の遊戯というのはある程度実力差が拮抗するからこそ楽しめる。
実力差がこうまであってしまえば初見は一色というインパクトで楽しめたが次意向はもう消化試合。
ヴォルフとしても頑張って何とかなるとかそういう次元を遥かに越えている為その気さえ起きない。
時折忘れてしまうが、あんな馬鹿げた事が起きる前まではアメリアは学園でも屈指の優等生であった。
「んー。他に何かあったでしょうか……」
そう呟き、ヴォルフはおもちゃ箱をがさごそと漁りだす。
正直に言えば、少しだけ……本当に少しだけだが、悔しいと感じていた。
「あのさ、ヴォルフ」
「はい。何でしょう?」
「その玩具は……一体どうしたの? そんな趣味あったっけ?」
「ああいえ、俺の私物は四割位ですね。お嬢様との暇つぶしの為に用意した。残りの六割はメイド達の私物だった物です」
「え? 何で? え? 盗んだの」
「まさか」
「だよね。ヴォルフがそんな事する訳ないよね」
「ええもちろん。貰ったんですよ。お嬢様と遊んで下さいと」
もっと言えば、アメリアを元気づけて欲しいというメイド達にヴォルフはそう願われたのだ。
機械系が一切受け付けず、VRゲームどころかオールドスタイルのビデオゲームでさえ酔いそうになるヴォルフでもアメリアと遊べるゲームをメイド達は考え、購入し、そして託した。
アメリアを元気に出来るのは、元の我儘ゴリラに戻せるのはヴォルフだけだと彼女達は信じていた。
後ついでにメイド達は色々な意味での犠牲者を減らす為にもそのまま貰ってくれないかななんて狡い事も考えてたりしてたりもしてたりする。
「……心配かけてばかりだねぇ」
「はい。だから早く元気になって下さい」
「……でも、迷惑かけたくないなぁ……」
しょんぼりと呟くアメリア。
アメリアだって心配されている事はわかっている。
だけどそれ以上に、これ以上落胆される事が恐ろしかった。
ヴォルフは箱を漁るのを止め、アメリアの方に近づく。
そして、しっかりとその綺麗な顔を見ながら言葉にした。
「俺には良いんです。俺には幾らでも迷惑をかけて」
「でも……」
「お嬢様の事なら何でも迷惑なんて思いません。あの日……あの恩義を受けたその時から、俺の幸せはお嬢様の幸せただ一つです」
「もう十分、返して貰ったよ。あんな子供の頃の事なんか……」
「俺は返したとは思えません。返せるとも思いません。一生かけてでも、俺はお嬢様を――お嬢様の幸せを願っています」
照れ臭かったのか気障ったらしい事を言った事に後悔しているのか、ヴォルフはアメリアから顔を反らし、逃げる様に再び箱を漁りだした。
その背を見ながら、アメリアは考えた。
気持ちは嬉しい。
貴族として生きて、これほど忠義に厚い従者が出来る事がどれ程幸せな事だろうか。
だけど同時に思ってしまうのだ。
――だったら、ヴォルフの幸せにどこにあるの?
かつての自分だったら、きっとその忠義に対し、ただ喜ぶだけだっただろう。
こんなに自分は立派だから、これだけ慕われたんだなんて恥ずかしくもなく考えながら。
だからこそ、昔の我儘娘には戻りたくなかった。
「お嬢様的に何か希望はありますか?」
「えっ。ああ……その……ぶっちゃけ外で遊びたいかな」
「えっ?」
その言葉に、ヴォルフは驚き固まった。
「お嬢様……結構なインドアタイプじゃありませんでした?」
「まあそうだけど……農業の事も考えて体動かしたいかなと。軽く鍛えないと。私筋トレとかあまり続かなくて……」
「なるほど。楽しく気持ちよく運動と」
「そうね。それが出来たらとても良いけど……ちょっと我儘だったかな?」
「いや、そうでもないですよ。じゃあこれでどうです?」
そう言って、ヴォルフはサッカーボールを取り出し見せた。
「……まあ、そうなるよね」
アメリアの言葉に、ヴォルフも頷く。
「そうですね。ええ……」
二人は地面と空間制御で出来た擬似の天井、その間をばいんばいんと何度もバウンドするボールを見ながら、しみじみと呟いた。
ボールが外に出ない様一定領域を越えたら反射する様空間調整にて制御し、そしてさあPKでもと蹴ってみたら、これである。
これではPKと呼ぶよりはピンポールと呼んだ方が近い。
今この惑星にあるのは実際の重力ではなく、機械で用意した擬似重力。
本物の重力みたいなだけで、実際の物とはまるで違う。
しかも低予算での粗雑な重力発生装置。
人間にとっては重力と同じだが、ある程度以上の高度であったり人よりも小さい物だったりする場合、重力下の影響は不安定な物となる。
だから小さく跳びまわるボールを蹴れば、まあ当然こうなる。
試しに何回かやってみたものの、ボールを回収する時間が非常に長くなる為遊ぶテンポが恐ろしく悪かった。
とは言え、これは機械の所為だけではない。
チープな擬似重力故にというのも確かにあるが、どっちもが馬鹿力というどうしようもない理由もあった。
「うーん。どうしましょうかね」
そう言いながら、ヴォルフは跳ねるボールの方に向かい、キャッチして戻ってきた。
「PKも怪しいし、場合によったらドリブルなんかさえ難しそうよね」
「まあ、ここ狭いですから……」
「うん……。下手すれば畑荒らすし……。ただ……」
「ただ?」
「いや、これはこれでバウンドを前提にした球技にしたら楽しいかなとも思う」
「……なるほど。ありっちゃありですね。クリケットみたいにバウンドを利用する球技だってありますし」
「クリケットって……何?」
「ベースボールみたいな物です」
「ふーん。まあ、今日は戻りましょうか。ちょっと物足りないけど」
「だったら後でジョギングでもします? 一緒に走れば飽き辛いかと思いますが」
「そうね。お願いするわ」
そう言って、アメリアが部屋に戻ろうとした時……何かが、空から現れた。
星空の中から進んで来る。赤い星。
それは徐々に近づいてきて、形を顕わにする。
その流線形をした赤くメタリックに輝くそれは……宙船だった。
「む?」
ヴォルフは警戒を見せながら庇う様にアメリアの前に立つ。
アメリアも不安げな顔でその降りてくる宙船を見つめた。
激しく輝くメタリックレッド。
派手過ぎるそれに見える、銀と黒を使って描かれた女性とハートのシルエットマーク。
それに見覚えがあるアメリアは、一瞬で険しい……というか困惑した表情になった。
悲しい程に、そのシルエットに見覚えがあった。
「お嬢様。お知り合いですか?」
「知り合いというか何と言うか……」
「言うか?」
「あれ? お姉さまのマーク……」
ヴォルフも後からそのマークに気づいて思い出し……酸っぱいというか渋いというか、そんな苦渋に満ちた顔となる。
そして、彼女が現れた。
その、イメージカラーでもある真っ赤な髪を靡かせながら――。
ありがとうございました。




