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我儘令嬢と飼い犬執事  作者: あらまき
2-我儘お嬢様の農家体験記

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一種の現代病

 種植えを始めてから数日経ったある日。

 その日、アメリアは体の痛さから目を覚ました。

 当然、筋肉痛ではない。

 畑を耕しての筋肉痛は一日で完治しているし、普段の農作業は全てヴォルフがやっているから今は勉強以外特に何のノルマもない日々を送っている。

 あまりにも暇でかつ運動不足となりそうだから自主的に筋トレをする位には、体を使っていない。


 だというのに、体が痛い?

 不思議に思いながら体を起こし、時間を見る。

 味気ないデジタル時計は『12:00』と表示されていた。


「……ん?」

 一端目をこすり、再度見直す。

 やはり時計は『12:00』のまま。

 つまり……。

「あれ? お昼?」

 アメリアは首を傾げた。

 昨日は夜の十時にはもう寝ていた、

 なら、単純計算で十四時間は寝ている事になる。

 そりゃあ体も痛くなるのも当然の事だ。

 だけど、そんな事はあり得ない。


 あの堅物ヴォルフが起こしに来ない訳がないからだ。


 もしもアメリアが寝たふりでもしようものなら、強引にお姫様抱っこで恥ずかしい起こされ方をさせてしまう。

 というか過去された事がある。


「……んー。何だろ。私もしかして忘れられた?」

 そんな事を呟き、アメリアは苦笑する。


 最近のヴォルフはどこか楽しそうであった。

 夢中になっていると言っても良い。

 土いじりが楽しいのか農業そのものが楽しいのか。

 アメリアには良くわからない。

 だけど、その姿はアメリアの知るヴォルフと少し違う物であった。


「本来なら主としてお叱りの声位あげるところだけど……まあ、今回は許しましょう」

 上から目線で、やれやれとアメリアは呟く。

 追放という状況でついて来てくれた恩があり、叱る資格がないという事も理解している。


 だけど一番の理由は、単純にヴォルフが楽しそうだから。

 ヴォルフの趣味は読書位な物だと思っていたから、正直びっくりした。

 そう言う事なら、我儘お嬢様であるアメリアでさえ、多少はまあ融通を利かせる。


 そう思う程度には、彼らの付き合いは長い物だった。


「……あの頃は……あんなコワモテ系になるなんて思ってなかったなぁ……」

 しみじみと、アメリアは目を閉じ、かつてのヴォルフを思い出す。

 小さかった頃初めてあったあの頃。

 今考えたら信じられないが、幼少期のヴォルフは今にも消え去りそうな薄幸の美少年であった。


 それがあそこまで大きく強く育った事を考えると感慨深い何かをアメリアは感じられた。


「っと、そんな事よりお昼ご飯用意しないと。……流石に、先に自分だけで食べてたら私だって怒ろう。幾ら合成食なんて味気ない物だとしても、それはちょっとね」

 そう言いながら、洗顔から着替えまで朝行うべき支度のワンセットを終えた。




 現在、この家の間取りは玄関とトイレ、エアシャワーの各個室を除けば二部屋のみである。

 そして、片方の居住スペースはこうしてアメリアが自分だけで占拠している以上、必然的に、もう一つの食事スペース付きの部屋がヴォルフの部屋となる。

 つまり、ダイニングキッチン兼勉強部屋兼ヴォルフの部屋である。


「ヴォルフー開けるわよー」

 そう言って乱暴にノックをした後、アメリアはスイッチを押してドアを開く。

 部屋の中は、何故か明りが付いていなかった。


「外に出てるのかな?」

 不思議に思いながらもアメリアは壁のスイッチに触れ照明を灯す。

 そして小さな食卓用テーブルを見て、アメリアは小さな疑問を覚える。

 テーブルが、昨日のまま。

 朝食の用意をした痕跡さえなかった。

「あれ?」

 奥に行って、食料変換機の残量とログを確認する。

 それには、昨夜の後から触れた痕跡さえなかった。


 アメリアは、虫の知らせの様な嫌な予感を覚える。

 それが何なのかわからない。

 ただ、何か……口には言い辛い、焦燥感の様な物がこみ上げて来た。


 静かに変換器から離れ、アメリアはヴォルフを探す為外に出ようとする。

 そして移動して――部屋の隅にある、黒い塊に気が付いた。


 それは、寝袋だった。


 何時もアメリアが起きた時には壁にかけてある、高性能弾力素材の寝袋。

 ヴォルフが持ち込んだ、数少ない私物の一つ。

 それが、膨らんでいた。


「……え? いや、だってヴォルフが寝坊なんて……」

 そして近づき、そっと触れてみる。

 寝袋は、不自然な程暖かかった。


 アメリアは無言のまま、静かに、ジッパーを上げていく。

 その中にはヴォルフが入っていた。


 その顔が見れて、アメリアは安堵の息を吐く。

 だが、どこか様子がおかしい。


 顔が真っ赤で、息が荒い。

 その上意識さえない様に見える。

 自分の熱と比べようと、アメリアはおでこをとんと当てる。

 ヴォルフの熱は、驚く程に高かった。


 真っ赤なヴォルフとは反対に、アメリアの顔は青くなる。

「ど……どうしよう。……どうしよう。どうしよう!」

 アメリアの頭は一瞬で真っ白になって、何も考える事が出来なくなった。


 アメリアは未曾有の危機に遭遇したかの様に、文字通りのパニックになっていた。


 それは、ある種重大な、治療不可能な現代病の一つと言えるだろう。

 ヴォルフがではなく……アメリアがだが。


 高度なナノマシンを使っている為、アメリアが病気になる事はほとんどない。

 軽い物ならその場で治す。

 逆に言えば、ナノマシンありの状態で体調不良が表に出るという事はイコールで緊急度合いの高い重度の症状となる。


 だから、アメリアの中ではただの風邪という発想が出てこない。

 軽い病気という考えそのものが、彼ら貴族にはないからだ。

 体調不良で倒れたという事は、そのまま命の危機と考えてしまう。


 それこそが貴族の子供にかかりやすい症状。

 所謂『風邪知らず』なんて呼ばれる、統一宇宙時代に生まれたら新しい形の現代病であった。

ありがとうございました。

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