097. 小雨の中でやれたらどんなにマシか
爽やかな水色の空に雲一つ無く、太陽だけが燦燦と輝く炎天下の中、青蘭中の体育祭が執り行われている。どの生徒も滝のように汗が流れ落ち、ちょくちょく水筒の中の飲み物を口にする。
蓮真はその体育祭の中を自分の席からただ眺めていた。
「暇そうだね」
蓮真の方に先ほど何かの競技に参加して戻ってきた愛花から声が掛けられた。いつもクラスメイト達に向けるときよりも低い声で、顔を見るといわゆるジト目になっていた。
「俺の次の出番は暫く先だからな」
「ふーん。こっちはまたすぐ出なきゃいけないから羨ましいよ」
「運動が出来るって大変だな」
「他人事みたいに言わないで。五月雨君も本当は私なんかより遥かに運動得意でしょ」
「いや、そんなことは別に」
「あるから。前にやったお手玉とか」
愛花は隣の席に座る。念のため説明すると体育祭の最中は校庭に椅子を運び、同じ色、クラス、そして性別で固まるようになっている。つまり教室のときと違って蓮真の隣の席は愛花のではないのだが、今たまたま空いているのをいいことにちゃっかり腰を下ろしている。
「何で体育の授業や今日の体育祭で本来の力を出さないの」
「面倒くさい」
「はい?」
「あの調子でやると翌日筋肉痛とか凄いんだよ」
「そんな副作用あったの⁉」
「体育とか並の成績取れればいいから、あんま全力出したくない」
「そう……」
愛花は席を立ち、視線を真正面、競技の真っ最中である校庭に向いた。
「まー無理には言わないけど。体育祭で負けて終わるのも面白くないから」
愛花がここで一息入れる。
「ちょっとは勝てるように協力してください」
そう言って愛花は次の競技のためか席から去っていった。吹いた風が愛花の後ろ頭に垂れていた白い鉢巻きを旗のようにたなびかせていた。




