094. 聞いてるフリするのは得意
「よお」
「や」
「こんにちは」
蓮真が既に空き教室で寛ぐ深言と玲に挨拶を交わす。昼休みに時々見るようになった光景だが今日は蓮真の後ろに新顔が見えた。
「やあ」
「あ、中田さん」
「おー、待ってたよ」
愛花は二人の女子の元へ歩み寄り、近くの椅子に腰を下ろした。蓮真は普段と変わらず女子達からつかず離れずの距離にある椅子へ腰掛ける。
「何かクラスの教室より広く感じるね」
「ねー、人少なくて快適だわ」
「私もそれでたまに来るようになって」
「わかる」
「えっと、私が来てもよかったの?」
「いーよ別に」
「そーそー、一人ぐらい増えたってさ」
「ただあまりお友達は連れてこないでくれると助かるかな、て」
深言は蓮真を横目に見る。蓮真は女子達の方を見ず本をただ読んでいた。
「えーと、騒がしくするとマズいから?」
「うん」
「ここ無許可で拝借してるしね」
「なるほどね……」
「まー、それより来週の体育祭、正直面倒じゃない?」
「中々ストレートに言うね……」
「正直に言うとちょっとだけ、面倒かな」
「賛成しちゃうんだね……」
愛花がどう返事したものか窮しているように映る。二組の教室ではまず見られない姿だ。
「応援練習とかすごくしんどいんだけど」
「うん。大きい声出してるつもりなのに『もっと声出せ』なんて喉ガラガラになるよ」
「確かに練習はキツいとは思うけど」
まーまー、と愛花は二人の正面に手のひらを向けて文句を抑えようとする。蓮真も口にこそ出さないが二人の言い分は理解できた。
「まー、でもいざ始まったら楽しいと思うよ」
「見てる分にはね」
「弁当持って保護者側の観戦場所で応援してた方が楽しいかも」
「全然参加する気無いじゃん」
愛花が両手を引っ込めて腿の上にそっと置いた。
「アンタは体育祭どうなの? 楽しみ?」
と蓮真のいる方へ玲が声を発した。
「ん? 別に興味無い」
「あーやっぱり」
「そもそもスポーツもそんな好きなわけじゃないしな」
「へー」
「当日は屋上からのんびり眺めることにするよ」
「屋上立ち入り禁止だから。あと君も白組として参戦するの」
「一体誰がそんなこと決めたんだ」
「学校が! 先生が組分けのこととか話してたでしょ」
「え……?」
「まさか聞いてなかったの?」
愛花は額に手を当てた。深言と玲は二人のやり取りを微笑みつつも見守っていた。




