092. 昼も普通に活動していることに驚いた
稲が若々しかった緑から煌びやかな黄に色づいている田んぼ道を通っていくと、自転車を走らせる小学生達が時々横切っていく。いつもとは少し外れた方面に散歩している蓮真が途中の風景を眺めていると向かいから女子がやって来た。
彼女は白い半袖にデニムの短パンという軽装で、一人田んぼの方を見ながらゆっくりと歩いていた。蓮真までもう数歩という所で彼女が蓮真の存在に気付くと蓮真から離れる方へ進路を変えようとするが、蓮真の顔を見ると目を細めた。
「あれ、アンタ五月雨?」
彼女から蓮真の名が出たことに驚き、蓮真も彼女の顔を注目した。誰だったか頭の中を急ぎ回転させると、夏休みの間、たまに見かけた顔であることを思い出した。
「ああ、夜の公園少女」
「都市伝説じみた呼び方しないで」
「この声って名前だったか」
「どんな苗字よ。近衛。近衛筝」
蓮真も筝も一旦立ち止まり、道の端の方へ寄る。
「で、こんな所でどうしたの? どこかに買い物?」
「ただの散歩だ。お前は?」
「奇遇だけど私も散歩。いつも瑪瑙小の近くを廻ってる」
「そう言えばこの辺小学校あるな」
蓮真の歩いていた方向へもう少し進むと瑪瑙小学校が見える。田んぼのど真ん中に建てられた学校であり、周辺には青蘭中の方面に通じる坂道や、静かに水が流れる川がある。
「ちょっと瑪瑙小の方通ってみるか」
「私も丁度行こうと思ってたし、それなら一緒に行こっか」
「え、お前さっき学校から離れる方に歩いてきてたろ」
「そろそろUターンしよっかな、て考えてたから」
「そうだったのか……」
「で、どうなの?」
「一緒に行くのはいいぞ」
「わかった。それじゃよろしく」
筝は蓮真より先を歩き始めた。何を考えているのか今一読み取れない無表情であり、さっきまで散歩してたという割に疲れが感じられない歩きっぷりである。




