090. 三人でテスト勉強を教え合ってくれたら楽なのに
「ああ、そうだが」
愛花からの意図がよくわからない質問にとりあえず答える。愛花はそれ以降言葉を発しなくなり、深言と玲も何故か喋らない。
沈黙が続くが、ひとまず互いに紹介しておいた方がいいだろう。蓮真は愛花の方へ手を向けた。
「コイツは中田。前に話した同じクラスの勉強見る相手」
「あ、ああ、中田愛花です。よろしくね」
蓮真からの紹介に合わせて愛花が改めて二人に挨拶するが、どこか声に活気が無い。
「こっちが清野で、こっちが松田。さっき話した通りだ」
「清野深言です。よろしく」
「えと、松田玲。よろしくね」
二人は愛花へほとんど同時にお辞儀をする。初対面で緊張しているためか普段の空き教室での振る舞いより動きが固くなっていた。
「じゃあ、とりあえず俺らも座るか」
「ああ、うん、そうだね」
蓮真と愛花はテーブルの席に向かった。深言と玲が横並びに座っているのに対して蓮真は深言に、愛花はその隣で玲とそれぞれ対面するように座った。
テスト勉強は女子三人とも各々のペースで進んでいった。本を読みながら暇を潰す蓮真へちょくちょく「ここ教えてもらっていい?」という具合に愛花、深言、玲の内の誰かが質問を挟み、蓮真がそれに適宜答えていく。そうして時間がどんどん過ぎていく内に三人の調子は元に戻っていった。
途中、玲から動きがあった。
「今の席だとちょっとメンドくさいね」
蓮真の席は今の玲から見て斜向かいになる。蓮真に教わる度に深言や愛花の邪魔をしないように蓮真の近くへ本やらノートを動かすのが手間に感じるのだろう。
「ちょっと避けようか」
「私もそうするよ」
と深言や愛花が提案するが玲は
「いや、大丈夫」
と椅子を両手に持ち上げた。それを蓮真の席の愛花がいる方とは反対側の隣へ移すと、ノートや本を持ってどっかり腰を下ろした。
「じゃ、続けようか」
「ん」
平然とテスト勉強を再開する玲だが、愛花は蓮真と玲の二人を見てふむと考え込むように手を顎にやった。同じく二人を見ていた深言の方は声を出さず顔だけで微笑んでいた。
「ん、何?」
「あ、別に」
「何でもないよ」
玲が彼女達に問いかけると彼女達は何食わぬ顔でテーブルに置いた問題集やノートに視線を戻した。
最終下校時刻が迫り、図書室にいる他の生徒もちらほら帰る人が多くなってきた頃に蓮真と女子達は帰り支度を始める。そのとき愛花が
「ねえ、一緒に帰らない?」
「うん」
「いいよ」
と深言と玲を帰りに誘い、そして二人とも承知していた。
「んじゃ、俺はこれで」
「うん、今日はありがとね」
「ありがと」
「ありがとうございました」
女子全員からお礼を受け取る。蓮真は既に彼女達に背を向けて図書室の出口に歩いていた。
図書室を出た先の廊下は外の夕暮れを反映するように薄暗い。図書室の中は周りよりずっと明るく、ふと目をやるとそこに残っている愛花、深言、玲の三人の姿をはっきりと照らし出していた。




