86/100
086. よろしくと言われても
人気が無く、森林や遊具が闇の中で静かに佇んでいる夜の公園にて蓮真はベンチに座り一人で作業していた。暫く蓮真以外の人は現れなかったが、園内の坂の方からコツコツと足音が聞こえたかと思うと、その音が小さい人影とともに蓮真へ接近するのがわかった。蓮真はとりあえず無視することにした。
人影は蓮真の前に来るとこう尋ねる。
「何してんの?」
「論文を書いてる」
「何の……って聞いてもわかんないだろうしいいや」
この夏の間にすっかり顔馴染みとなった筝は蓮真から顔を反らして公園の風景を眺め出した。ワンピースのスカートが前髪を切り揃えた長髪に似合っていた。
「あ、ちょっと訊きたいんだけど」
「何だ」
「アンタどこの学校?」
「青蘭中だ」
「あー、やっぱ中学なんだ……」
所属している中学校を答えたところ筝は案の定とでも言うような反応を取った。
「瑪瑙小の出身?」
「いや、翡翠小」
蓮真はボールペンをベンチに置いた。
「どうしたんだ、いきなり」
「別に。ただ来年私そこの中学に入るだろうから」
筝が蓮真の方を振り向く。彼女の髪がふわっと靡いた。
「そのときはよろしく」
筝はどういう気分なのか今一わからない無表情をしていた。




