008. ネットで2300円ぐらいで売られてた
松田玲は中学生活をそれなりに楽しんでいた。
小学校から仲の良かった友達と同じクラスに入ったお陰で、休み時間や下校のときでも暇を持て余すこともなくさらに新しい友人も増えて遊ぶ機会もより多くなった。
そんなある日のこと、玲はちょっとした用事で友達より遅れて移動教室のために廊下を歩いていた。
今の時期には珍しく少し肌の冷える気温で、廊下から見える外はどんよりとした空模様であった。
その折、向かいから一人の男子生徒がやって来た。
その男子は入学式のときに会った五月雨蓮真だった。彼とは別のクラスになって正直安心していたが、同じ学校の生徒である以上たまに遭遇するのは避けられないだろう。
ふと蓮真の様子を見ると、蓮真は仏頂面で本を片手に持ちながら読んでいた。
薪を背負いながら。
二宮金次郎でも校舎内でそんな真似しないと思うが、コイツは何でこういう行動に出ているのか。
玲がそう思っていたときに蓮真と玲の目が合った。玲は「ひっ」と小さく声を上げた。
「どうした、不審者に目をつけられたかのような悲鳴を出して」
「今まさにそうなってるんだけど」
蓮真は辺りを見回した。
「どこにも不審者らしき人物は見当たらないぞ」
「お前がそうだっつってんだよ」
「失礼な。本を読んで歩くなんて別におかしくないだろ」
「その背中にあるもんは何」
「ああ、これか? 筋トレにいいかと思って」
「恥も外聞も無いのかお前」
前回と同じく頭を抱える玲。蓮真のことは放っておいて移動教室を急ぐことにした。
「じゃあ、私移動教室だから」
「そっか、それじゃあな豊田」
「松田だよ!」
名前を間違われてつい突っ込んだ玲はとにかく次の授業が行われる教室へ足を速める。蓮真は玲とすれ違うようにゆっくり歩き始める。
玲の背後から遠くの方で、硬い物がカツンと床に落ちる音がした。




