078. 真夏にひと時でも雪山の気分を
筝は深夜の公園に来ていたが、今夜はいつもと違い、人を探していた。
奴はこの時間にこの場所へ現れる。毎日というわけではないが既に二度は会っているしまた現れるだろうと当てずっぽうに考えていた。そもそも奴のことは詳しく知らないのでここで会えなければ他に手がかりは無い。
とりあえず広場の方を最初に見て、順に巡っていこうとしたら案外早く見つかった。
公園にある坂道でスキーしようとしている奴が。
林の中、高さ10メートルも無いようなぼこぼこの土の坂をご丁寧にスキーウェアを着けて足にスキー板を装着した奴が下っている。自然に滑り落ちていくことは全く無く、ストックで地面を突きながら何とか進んでいる具合だ。いっそ哀れである。
深夜とはいえ分厚いスキーウェアを着込んで暑くはないのかと思いながら、奴の顔を確認する。
(あー、やっぱ財布拾った人と同じ顔だ……)
その顔は案の定汗でびっしょり濡れていた。筝は奴に近づいて一応口を開く。
「えーと、この前私の財布を拾った人ですよね」
「?」
奴は怪訝な表情でこっちを見た。そして(誰だコイツ)とでも思ってそうな表情を浮かべると少ししてああと口を動かした。
「ああ、昨日この公園で」
「はい、お世話になりました」
奴はスキー板を着けたまま坂を上がってきた。
「それで、何の用だ」
「ああ、その」
奴に向けて言葉をまとめる。そういえば自分は何でコイツに話しかけたのだろうか。
「深夜、ここで時々見かけるから、何というか」
言葉を紡ぎながら結論をまとめていく。昨日話してみて思ったがコイツは別に悪い奴じゃない。こうして鉢合わせるのがチョイチョイあるのなら、ここで名前ぐらいは憶えた方がいいんじゃないか。
「お名前、教えてほしいな、って」
考えたことをつい口に出したら、奴はあっさり
「ああ、五月雨蓮真って名前だ」
と教えてくれた。
「お前は何て言うんだ」
「え、ああ」
筝も改めて名乗る。
「近衛筝って言います」
「そうか、よろしくな」
こうして蓮真と筝は互いを知った。




