077. 落とし主が見つからなかったら交番に届けるつもりでした
筝は昼、いつも通っている公園へ散歩に出ていた。一通り巡ってそろそろ帰ろうかというときにとあることに気付いた。
(財布は……?)
筝はいつもズボンの後ろのポケットに財布をしまっていた。そのポケットに違和感を覚え手を突っ込んで調べるとそこには何も入っていなかった。
ズボンの他のポケットを探ったり周りの地面を見渡したりしたが財布が見つからない。筝は鼓動が早くなり、自分が歩いてきたコースをもう一度引き返すように走って財布を探し始めた。
慣れていない猛暑の中の走り続きで筝は息を切らしていた。汗はとっくに全身を濡らし、傍から見れば湯気が出ているんじゃないかと想像しているぐらいだった。立ち止まって休む間も筝は地面に目を向けて財布を探すのに集中していた。
あの後コースを丸々引き返したが見つからない。記憶違いがあるのかもと思い自分が回った憶えの無いところも回ってみたが財布が無い。誰かが持ち去ったのだろうか。
一縷の望みに賭けて近くの交番へ電話しようと思ったところで誰かに話しかけられた。
「すいません、何か落としたんですか」
「え?」
声のする方には一人の男子が立っていた。
「何やら周囲を探し回っているように見えたので気になりました」
何を言ってるんだろうと思ったが、
「ちなみに先ほど自分も誰かが落としたと思われる物を拾いました」
と聞いたときは筝は希望を感じた。
「え、えっと……」
相手に何と言えばいいか咄嗟に思い浮かばずしどろもどろになる。先に男子の方が口を開いた。
「どうやら本当に落とし物をしたそうで。どんな物でしたか?」
「あ、あの、財布、です」
未だ荒い息が邪魔して喋りが途切れ途切れになるが、筝は何とか財布のことを伝える。
「その財布の特徴は?」
「み、水色の。三つ折りの、やつ……」
「なるほど」
男子はズボンのポケットから何かを取り出した。
「これのことですね」
そう言って筝に見せたのはとても見覚えのある財布であった。
「ああ……! これです、これ!」
筝はいつになく興奮した。筝は目の前に差し出された財布を受け取る。
「じゃあ」
と一言だけ残してその男子は去っていった。
「あ、あの、ありがとうございます」
何とかお礼だけは言おうと言葉を掛けた筝に、男子は振り返らず右手を上げてブラブラさせた。
その後、冷静になった筝は財布の中身を確認したところ、特に落とす前と内容が変わらなかったことにまず安堵した。それから、あの男子にどこかで会ったことがあると思い記憶を辿っていたら
(あ、あの白い着物の奴)
であることに思い至った。




