074. 久しぶりにそう呼ばれた
柏部駅のデパートにある書店に寄った蓮真がそのデパートの椅子で休んでいると、不意に後ろから肩を叩かれた。叩かれていない方の肩から後ろを振り返ると愛花がいた。
「あ、引っかからなかったか」
そう言って蓮真の肩に置いた手を引っ込める愛花。肩に置いた手から人差し指だけ突き出して振り返った頬をつつくとかそんな悪戯を企てていたのだろう。
「どうしたんだ、こんな所で」
「友達と遊びに来たんだよ」
「御友人が見当たらないが」
「ちょっと用事があるって言って抜け出してきた」
「用事ってどんな」
「君を見かけたから少し話でもと思ってね」
「そうか、じゃあな」
「そうやってすぐ打ち切ろうとしないで、ね」
最後の「ね」の部分にそこはかとないプレッシャーを感じた蓮真。とりあえず立ち上がるのを止めた。
「で、一体何の話だ」
「洋子さんのこと」
「相馬さんがどうかしたのか」
「またまたとぼけちゃって~」
ニヤニヤする愛花にどうにも下品な雰囲気を感じながら蓮真は次の言葉を待つ。
「時雨中から青蘭中までデートしたんでしょ」
「?」
「え、ホントに心当たり無いの」
「二人で散歩はしたが、デートってつもりは無かったぞ」
「え、嘘でしょ」
「そう言われてもな」
蓮真の様子があまりに意外だったのか、愛花が笑顔を消して声が真面目なトーンになる。
「……まあ洋子さん楽しそうだったしいいか」
「相馬さん、お前にそのことを話してたってことか」
「そういうこと。ほぼ毎日チャットしてるし」
「ほう」
「君もいい加減無料のチャットアプリ入れなよ。そしたらこっちも簡単にやり取りできるのに」
「少なくとも今は使う気にならんな」
「頑固」
「結構だ」
愛花がため息を吐いた。敢えて蓮真に聞かせるような大きさだった。
「じゃ、そろそろ友達の所に戻るね」
「おう、じゃあな」
愛花はバイバイと手を振って蓮真の元から離れていった。それを見届けた後、蓮真もデパートを出ようとエスカレーターで降りていく。




