065. いつまでに作るとは言ってない
蓮真が朝早く登校すると校庭の方で一人の女子を見かけた。
見覚えのあるポニーテールのなびくその姿から、朋美だとすぐにわかった。
「おはようございます、先輩」
「ん? ああおはよう後輩君」
丁度校舎の方へ戻ってくる朋美に挨拶する。
「また私の走る様子を見てたのかな?」
「いえ、自分も今来たばかりで」
「ああ、そうなんだ」
朋美は体育館の側へ座った。座った隣にある水筒を手に取ってお茶を飲んでいる。予めそこに置いていたらしい。
「今朝は早いんだね」
「ええ、何か目が冴えてしまって」
「ふーん」
「それにしても先輩もこんな暑い中で凄いですね」
今は午前6時半ぐらい。午後2時頃の気温に比べればマシとは言ってもこの時期では激しい運動するには辛い暑さだ。
現に朋美の全身は汗が全身に流れている。今着けている陸上競技用のユニフォームにも汗が独特の模様を描いており、そのままシャワーを浴びてきたかのような有様だった。
「まあ、流石にキツいけどね」
朋美は水筒の蓋に注いだお茶を仰向けに飲み干す。
「それ以上に楽しいし」
口の辺りを手で拭いながらそう話す朋美の顔には辛苦が窺えなかった。
自分の教室に着いて暫く経つと、愛花が教室に入り隣の席に鞄を下ろした。
「おはよう五月雨君」
「おう」
「洋子さんから聞いたんだけど」
「何を」
「洋子さんにネックレスをプレゼントしたんだって」
「ああ、先週な」
「何で?」
「アクセサリ作りに挑戦したんで一番似合ってそうな人にあげようかと」
「私じゃダメだったの」
「あのネックレスならお前より相馬さんがピッタリだと思ったんだ」
「そっかー」
愛花は俄かに蓮真へ顔を寄せる。
「それじゃあ私にもネックレス作ってくれない?」
「何で」
「洋子さんだけとか不公平じゃん」
「以前猫の木彫りをあげただろ」
「アレは私へのお礼として、でしょ。単なるプレゼントじゃないし」
「……」
「ねーいいでしょ作ってよ」
「検討しておく」
もう面倒臭くなった蓮真はそう返しておいた。
すぐに忘れるつもりで。




