064. 雨は家の中から眺める分には好き
蓮真は雨の中を歩いている。隣には洋子が真横について行き、蓮真が開いた傘で雨を避けている。
洋子を家に送り届けてから帰る算段であり、
「いや、いいよ。五月雨君に悪いし」
「自分は別に。それよりこの雨を突っ切るのは難しいと思いますよ」
「うーん……」
というやり取りを経てそう決まった。
雨は次第に強くなった。木や家の屋根から水がバチャバチャと流れ落ち、道路一面が靴の中を濡らすぐらいの水位になっている。雲の灰色が陰鬱な暗さをもたらし、暫く雨の止まないことを予感させる。風が弱く横殴りの雨になっていないのが唯一の救いか。
二人とも暫く静かに歩いていたが、やがて洋子が口を開いた。
「五月雨君はさ」
と言ったところで少し間が置かれる。
「時々愛花ちゃんが誘って私達と遊ぶけど」
再び間が空く。
「私達と遊びに付き合うのって面倒?」
「いえ、別に」
俯きながら問いかける洋子に蓮真が返事すると、洋子は蓮真の顔を見た。
「そう……か」
「中田の強引さはともかく、一緒にいてしんどいとか思わないです」
「そう……ごめん、変なこと訊いちゃって」
洋子は首に掛かったネックレスの中央にある、三日月とガラス玉の飾りを右手で握った。傍目にはぎゅうと握りしめられ、その手から決して離れないような強さを感じた。
洋子の自宅に辿り着き、洋子が蓮真の傘のスペースから離れる。
「ん、ホントにありがとね」
「いえ別に」
「また一緒に遊ぼうね」
「はい」
「じゃあね、蓮真君」
洋子はそう言って家の中へ去っていった。蓮真は洋子の去り際に少し違和感を覚えたが、その原因がわからず差し当たって自宅へ向かうことにした。




