063. 梅雨の時期は折り畳み傘を欠かせない
蓮真は公園に一人立っている。本日は夜に雨が降るという予報が出ておりそれを兆すような厚い雲が天を覆っている。湿気が凄まじい。
用事を手早く済ませた方がいいな、と思っていたところに待ち合わせていた相手がやって来た。
「あ、待たせちゃったかな」
「いえ、大丈夫です」
洋子は時雨中学校の制服ではなく、私服の姿だった。半袖で左胸の辺りに英字のロゴが書かれた白いTシャツに、黒地で白く細かい水玉が散りばめられた丈の長く生地の薄いスカートを着けている。靴下やスニーカーも白く、清楚と大人びた雰囲気が上手く合わさったコーデだと感じた。
「それで、話って何かな?」
洋子が笑顔で問いかけるが、普段より微妙に強張っているように見えた。
「ええ、実は渡したいものがあって」
蓮真が通学鞄の中からとある物を取り出す。それを手のひらに乗せて洋子のすぐ前に差し出した。
「これは……ネックレス?」
「はい」
蓮真の手にあるそれは、女性向けのネックレスだった。銀の鎖に三日月とその窪みに浮かぶ紫のガラス玉が繋がれている。ガラス玉は小さい光の粒がきらきら瞬き、その中に小さい宇宙を内包している美しさだった。
「えっと……どうしてこれを私に?」
「丁度こんなアクセサリを作ってみたいと思って作ったのはいいものの自分では使わないので。自分の知っている人の中で一番似合いそうかと思ったのが相馬さんだったんです」
「ああ、そう……」
アクセサリをまじまじと見ていた洋子の声が小さくなる。そしてもう一言呟いた。
「似合う……」
「はい。ただ、もし要らないのであれば」
「折角だからもらうよ。ありがとう、五月雨君」
洋子は蓮真の手にあるネックレスを掴んだ。
「これ、早速着けてみていい?」
「はい、勿論」
そう言うと洋子はネックレスを首に装着した。今着ているファッションに相応しく、首元に掛かる静かな光が洋子の印象を引き立てるアクセントとして効いていた。
「では、自分はこれで」
「え、もう帰っちゃうの?」
「もう用事は済みましたし、今夜は雨が降るそうなので早目に帰らないと」
「あ、そうなんだ……」
洋子が伏し目になる。蓮真がどうしてだろうかと考えていると洋子の目の前に何かが上から落ちてくるのが見えた。
それが雨粒とわかるやどんどん降ってきて、
「少しまずいですね」
「そうだね。どうしよう傘持ってきてなかった」
「そうでしたか。それなら自分の傘使いますか」
「えっ」
蓮真は予め用意していた折り畳み傘を鞄から取り出した。




