006. 昔従兄からもらったもの
一年二組の三時間目では数学教師が教鞭を執っている。
このクラスに在籍する中田愛花の席は窓際の一番後ろにあたる。麗らかな日差しをたっぷり受けながら愛花は授業を真面目に受けていた。
愛花がノートの書き損じを修正するために消しゴムを掴もうとしたら、誤って床に消しゴムを落としてしまった。落ちた場所を探していたら、隣の席に座っている五月雨蓮真が愛花の消しゴムを乗せた手をすっと差し出してきた。
(ありがとう)
愛花は小声で軽くお礼を言って消しゴムを受け取った。蓮真についてはこの前話したときの癖の強さが印象にあるが、優しいところもあるんだなと愛花は感じた。
そうして授業を受けて数分後、何かが床へ転がり落ちていくのが愛花の目の端に映った。
転がり落ちた方向と物の大きさからして
(ああ、五月雨君の消しゴムか)
と思い、今度は自分が拾って渡そうと落ちた物を拾うとその詳細がわかった。
消しゴム、には違いないのだがそれはキ○グギ○ラの形をしていた。
怪獣物の作品に疎い愛花でもどこかで見たことのある三つの頭を生やした怪獣。それをかたどった消しゴムをよく見ると左側の頭は見事にもげ、中央の方は鼻と口の部分を残してそこから上が真っ黒に削り取られていた。
多分だがこの消しゴムを実際に使ってみた結果、左の頭は力加減をしくじってぽっきり圧し折られ、真ん中の頭は擦る力を調整しつつも次第に擦り減っていったのだろう。綺麗に残った右の頭がそこはかとなく淋しく感じられた。
愛花はとりあえず何か探している様子の蓮真の目の前に、さっき渡されたのと同じ要領で消しゴムを差し出してみた。蓮真は悪いと言って消しゴムを受け取り自身の机の上に置いた。
あの消しゴムはやはり蓮真の持ち物だったようだ。それはいいのだが(そうでなければ恥をかくところだったのだが)、もっと普通の消しゴムにしないのだろうか。単純に使いづらいし、あの手の消しゴムではちゃんと筆跡を消せるのかも疑問だ。
愛花がそう思ってふと隣の席を見たとき、蓮真はキ○グギ○ラ消しゴムをノートに擦りつけている最中だった。
蓮真のノートの上では至る所にグレーの汚染が拡がっていた。愛花はやっぱ消えてないじゃんと指摘したくなった。




