005. 一生の思い出になると思ったのに
日の光を遮る雲が無い快晴の中、青蘭中学校陸上部二年の志田朋美は砂煙を上げながら校庭を駆けていた。
走ることが好きで陸上部に入って一年、実力は可もなく不可もなくといった所だが同じ部活仲間との関係は良好であり、楽しく部活動ができればそれでよかった。
今日の部活が終わり、下校する途中に朋美は同じ学校の男子生徒を見かけた。
男子はスマホを睨んでいたが、朋美の存在に気付くや
「あのー、すみません」
と尋ねてきた。
「えっと、何でしょう」
朋美は不審に感じたもののつい返事をしてしまい、ひとまず相手の言動に注意して対応することにした。
「ちょっと道を教えてもらっていいですか。スマホで調べてもよくわからなくて」
「ああ、それなら」
「ありがとうございます」
腰を低くして接してくる男子に、少し警戒心が薄れる朋美だったが、
「この近くにあるという免許センターに行きたいのですがどう行けばいいでしょう」
「えっ」
免許センター?と朋美は首を傾げた。中学生の身空で何の免許が取れるというのか。
一応場所は知っているので朋美はそこまでの道のりをスマホでの地図アプリも交えて口頭で説明した。
「おお、よくわかりました。説明お上手ですね」
「どうも。それはそうと何故そんなところに?」
「そこの近くでネ○シーが見られると聞いたので」
「聞いたから何なの」
「勿論見に行くのです」
「いや、そうじゃなくて」
「あ、貴方もネ○シーに興味が」
「そんなわけないでしょ。どこで聞いたか知らないけど絶対嘘だから」
何故こんなことを同じ年ぐらいの人に教えなければならないのだろう。毒気の抜けた朋美は呆れた表情になった。
「え、嘘⁉」
「寧ろ何で本当だと思ったの」
「嘘ならこんなすぐバレること言うのは考えにくいから寧ろ本当なのかなって」
「どういう理屈よ。どうせ冗談か何かでしょ」
「あれ、思い返すとそんな気もしてきた」
「そんな適当な情報元でよく行こうと思ったね」
朋美はすっかり馬鹿馬鹿しくなり、帰路を歩き出した。
「じゃ、もう行くから」
「あ、ありがとうございます。それでは」
挨拶を交わして男子は去っていった。あの男子は新一年生だろうか。あんな灰汁が強い奴が同学年や先輩にいたらとっくに有名になっていそうなものだしきっとそうだろう。朋美はそんなことを考えていた。
なお、道を尋ねた男子生徒こと五月雨蓮真はこの後一縷の望みにかけて免許センターに行ってみた。やはり未確認生物はいなかった。




