055. テスト勉強は自室でないと集中できないタイプ
蓮真が本を読んでいる空き教室に玲と深言が入ってきたので、
「おう、じゃ昨日言ってたやつ始めるか」
と呼び掛けた。女子二人もすぐに意図を察して
「はい」
「ん」
と頷くと、教室の隅に放っておかれた机を持ち上げた。蓮真も同様に机を運び、三人は中央へ机を寄せた。
「ん、この配置でいいのか」
「ええ、その方が君も教えやすいでしょうし」
「だよねー」
机は玲と深言が使う分を向かい合わせて、蓮真の机はその中心を見るように二人の机の横に接する形だ。いわゆる島型オフィスのようなレイアウトであり、蓮真は上長が座るような位置に対応する。
「俺が教えること前提かよ」
「この前松田さんにも色々ご教授なさってたとか」
「いやー、わかりやすかったよ先生」
「先生じゃねぇ」
ともあれこの配置に決まり、各々席に着いて鞄から必要なものを取り出す。女子二人は教科書、問題集、ノートだが蓮真は本を取り出した。
「勉強しないんですか」
「俺はいい。直前に自宅でやっておく」
「そういえば前も優雅に読書してたね。流石先生」
「お前は語尾に先生と付けるキャラでも目指してるのか」
「んなわけあるか」
ともあれテスト勉強が始まった(蓮真以外)。
一時間ぐらい経った後、玲と深言のどちらからともなく休憩に入った。玲は腕を大きく天に伸ばし、深言もふうと一息ついた。
「二人ともすごい集中してたな」
「まあ、あまり手を抜けないですし」
「先生のお陰でスムーズに進めたしね」
蓮真は読書の傍ら二人からの質問があるとスラスラ解説していった。二人ともそれを聞くとすぐに理解して次へ進むので、上から目線だろうが中々教え甲斐があった。
「松田さんが言ってた通りホントにわかりやすいですね」
「人に教える仕事向いてるんじゃないの?」
「さあな」
「それもその本を読みながら」
蓮真が先ほどまで読んでいた本は『リボルバー式鳳仙花』という小説であった。深言曰くあんまり有名ではないらしい。
「そうだ、勉強を教えてくれたお礼にそれのオチを教えましょうか」
「ネタバレは勘弁してください」
「冗談ですよ」
深言が笑顔を浮かべる。悪戯が好きそうな笑顔である。
「それ、タイトルから何の話なのか全く想像できないんだけど」
玲が蓮真の方へ体を向けた拍子に玲の腕が消しゴムにぶつかった。消しゴムはあらぬ方向へ転がり落ち、三人の机の下の方へ行ってしまうのがちらりと見えた。
蓮真が消しゴムを拾おうと椅子から離れようとすると、
「あ、いいよ自分で取るから」
と玲が先に椅子へと離れた。それならばと蓮真は自分の席に座ったままでいた。
深言は玲の丈を短く穿いたスカートを見て、玲が消しゴムを拾いに行った理由を察した。何だかおかしくなって口元を片手でそっと覆い、笑いそうになるのを抑えた。




