045. 実際の宮殿は何円で買えるのか
このところ暖かい日が続きペーパークラフトの作業中でも汗をかくことがしばしばであったが、今日はやけに涼しい。肌の冷えを感じながら蓮真は目の前の作品を鑑賞していた。
そのときに玲が蓮真のいる空き教室に入ってきた。
「おお、立派なもんじゃん」
「そりゃどーも」
玲が賞賛してくる。いつものような毒気はなりを潜めていた。
蓮真の作ったペーパークラフトは洋風の宮殿であった。上から見ると長方形になるような作りで、山吹色に輝く壁には格子を入れた窓がきっちりはめられている。その建物にエメラルドグリーンの平たい屋根が被せられており、宮殿の正面には王冠の如く半球に小さい突起の付いた屋根と黄金の紋章、大きな門と柱が目立つ。王が住むのに相応しい風格をできる限り表現したつもりだ。
何より特徴的なのは砂絵のようにザラザラした質感が宮殿の全体に亘っていることだろう。
「本当に全部紙やすりで作ったのね……ご苦労さん」
「いや、結構簡単だったぞ。時間は掛かったが」
「その才能もっと他に活かせるんじゃないの? 知らんけど」
二人が会話を交わしていると、空き教室の扉の開く音が鳴った。
蓮真と玲が見やるとそこには深言が立っていた。いつもは鞄を携えて放課後にやって来るのだが、今日は鞄どころか本も持たず手ぶらでやって来ていた。そして扉の前で立ち止まった。
「えっと……松田さん?」
深言は蓮真も宮殿も見ずに玲の方へ問いかけた。その表情や挙措には狼狽えている様子がありありと浮かんでいた。
「そうだけど……清野さんだよね」
玲はいつになく大人しい調子で深言に返事をした。互いに名前を知っている辺り知り合いなのだろうが、それにしては余所余所しさが気になる。
「はい、そうですけど、何でここに」
目の錯覚でなければ深言の顔には汗が一滴流れていた。




