042. 将来はアオウミウシになりたいと思っていた時期もありました
「五月雨君って将来博士にでもなるの?」
「別になる気はないが」
「そうかー。じゃあもう一つ聞くけど」
愛花が蓮真にやるせない表情を向けた。
「国語の九十一が五教科中最低点ってどういうこと……」
蓮真のテスト結果は国語九十一点、英語九十五点、社会九十八点、数学と理科は百点満点で計四百八十四点。青蘭中ではテストの学年順位を公表しないが、この調子ならどうせ一位であろう。
ちなみに愛花のテスト結果はいずれも八十点台。各教科の平均点の範囲が六十~七十点なのでそこそこ上位ではある。正直どれか一教科ぐらいは蓮真を凌ぐのではないかと思っていたのが今となっては恥ずかしい。
「どういうことって訊かれてもな。俺なりに勉強した成果だ」
「へー……」
「国語は低かったからもう少し勉強するつもりだ」
「これ以上突き放されると立ち直れなそう」
愛花はしなだれようとする頭を頬杖で支えている。
「それにしても数学と理科の二教科満点ね。理系が得意なの?」
「好きではあるからそれが奏功したかもな」
「科学者とか向いてるんじゃないの」
「さあな」
「次のテストで満点取ったらご祝儀に何か奢って」
「理由がさっぱりわからんが。大体俺いつも金欠だぞ」
「どうして……ってもしかしてこの前の木彫りとか紙やすりとかでお金使っちゃうから?」
「まあそうだな」
「何だつまんない」
愛花は不貞腐れた。
その後の愛花は次第に機嫌を直していったようで、五限が終わる頃には普段の明るい調子に戻っていた。
「五月雨君のテスト結果を見て思ったんだけどさ」
「何だ」
「勉強でわかんない所あったら教えてもらっていい?」
「お前なら特に問題ないんじゃないか」
「応用になるとちょっとキツいんだよね。いいじゃん減るもんじゃないし」
「……わかった」
蓮真は根負けした。愛花の成績ならば教えるのにさして時間は掛かるまい。
「ふふ、ありがとね」
そう言って微笑む愛花。我儘を聞いてもらえて喜ぶ幼児のような狡さを感じたが、同時に浮かぶあどけなさがより深く彼女の印象に残った。




