037. 世界一本を多く読む人は週何冊読んでいるのか
一年二組の国語の授業にてこの前のテストに対する解答用紙が返ってきた。テストの結果を見てクラスの人達が一喜一憂している中、蓮真は自身のテストをじっくり見直していた。
授業後の休み時間に愛花が蓮真のいる方へ首を伸ばして話しかける。
「ね、国語のテスト何点だったの?」
「九十一点」
「え」
「九十一点」
「あ、ちゃんと聞こえてるよ」
呆気に取られた様子で受け答えする愛花。
「お前は何点だったんだ」
「八十五点だけど、五月雨君って国語得意なんだね」
「どうだかな」
「普段本読んでるとやっぱ違うのかな……」
「俺もそんなに数多く読んでるわけじゃないぞ」
「そうなの」
「ああ。週に一、二冊ぐらいだ」
「あまり読まない私にはそれでも多く感じるけどね」
そう愛花は宣うが、運動後の水を飲むように多くの本を読み続けている、とあるショートボブの少女を知っている身としては甘く感じる。
「週十冊以上読む奴もいるしな」
「私には縁の無い世界だなぁ」
愛花にとっては読書を趣味とする人間が海を隔てた大陸の住人ほどに遠い存在なのだろうか。ここで蓮真はふと一つ愛花と約束していたことを思い出した。
「あ、そうそう、お前にこないだ言ってた『フルーツパーラー林田』、図書室に返したぜ」
「え、……ああ、五月雨君が読んでた本ね。その本って面白かった?」
一瞬訝しげな声と表情を現した愛花がたった今思い出したように返答した。教えてくれとお願いした張本人はどうも忘れていたらしい。
「俺にとっては」
「そっか。私にとってはどうなんだろ」
「それは自分で読んで判断してくれ」
「そうだね。本のこと伝えてくれてありがと」
愛想よくお礼を言う愛花。
その日の放課後、愛花は図書室に寄って一冊の本を借りていった。
借りに行く途中、本を三、四冊ほど片手に抱えてさらに本棚を巡っている少女を見た。こういう人が蓮真の言う「週十冊以上読む」人なのかもしれないと想像した。
(あれ、あの人同じ学校にいたような)
愛花はそんな記憶が頭を過った。確か同じ学年の違うクラスで見たことあるような気もする。しかし名前を思い出せず、一度も接点の無い女子だったので頭に思い浮かぶ映像は曇りガラスを通したように朧気で、同一人物かどうかもよくわからなかった。




