033. あのゲートを自室に置いてみたい
玲の(付け焼き刃的)テスト勉強に付き合わされることになった蓮真。
明日のテスト科目の教科書等は自宅にあるため一旦解散し、図書室で落ち合うことになった。蓮真は自宅に戻り、自室の中から持っていくものを取り出しては作業のように鞄に詰めていく。鞄は通学鞄を使うことにした。
自宅を出る。今日の予報では晴れとなっており、蓮真が空を仰ぐとなるほど雲の一切れも見当たらないすっきりした青色の平面を太陽の光が刺し貫いていた。冬ならこんな天気も歓迎だが気温の高い時期にこうも日光が主張しては散歩にはちと辛い。
汗を掻きながら歩いていくと目的地の図書館が見えてきた。小さな公園の隣にひっそりと佇む建物であり、外壁を見るに結構な年数を経ていることがわかる。
図書室の入口まで来ると玲がスマホをいじっているのを見つけた。
「おお、久しぶりだな」
「別れて一時間も経ってないでしょ」
玲は肩に通学鞄を掛けた制服姿と、先ほどと同じ出で立ちである。蓮真と同じく新しい格好に変えるのが面倒だったようだ。
「じゃ、行くか」
「うん」
二人は図書室の扉をくぐり、その先にある大雑把な穴の空いた長方形の板を左右に並べた機械的なゲートを通り抜けていく。
図書館内部の大きなテーブルにて二人は隣り合って座り、玲は教科書とノートを机の上に開いた。蓮真は小説を片手に広げた。
「ちょっと待って」
「ん?」
「アンタ勉強しないの」
「テスト範囲はもう粗方さらってるしな。不安な箇所は今日家に帰ってからやる予定だ」
「何その余裕」
「お前が巻き込まなきゃもっと時間に余裕があったけどな」
「何の話かなー」
玲が蓮真から教科書に目を逸らす。
「とにかく、お前が勉強してる間俺は小説読んでるから、教えてほしい所があったら言ってくれ」
「わかった」
玲は教科書に目を向けたまま口を閉じた。蓮真は玲が勉強に集中し出したと見て読書に戻ることにした。冷房が効いているお陰で快適に読めた。
十分後、玲が平時より抑えた声で尋ねてきた。
「ねえ、ちょっといい?」
「悪い、区切りのいい所まで読みたいから後一分ほど待ってくれ」
「んー、了解」
さらに一分後。
「ねえ、もういい?」
「すまん、思ったより進まなかった。後一分だけ」
「しょうがないなー」
さらに一分後。玲が少し声を低くした。
「ねえ、いい加減教えてよ」
「ごめん、区切りの後がすごく面白そうだから後一時間」
「お前教える気ないだろ」
玲が睨みつけてくる。蓮真は仕方なく小説に栞を挟んだ。
それから蓮真は改めて玲のテスト勉強を見た。蓮真なりに嚙み砕いた知識を玲に教えたところ、玲はすらすら理解していき要領良くノートに書き留めていく。
「わかりやすかったわ、ありがと」
「そうか」
その後も蓮真は小説と玲の方に意識を交互させることを繰り返し、やがて日が暮れた。窓に映る薄暗い光景が下校時のメロディを連想させた。
「おい、もうこんな時間だぞ」
「あ、ホントだ。じゃあ帰ろっか」
二人は荷物を手早く鞄にしまい、横並びにゲートをくぐっていった。
二人は図書館の外に出た。玲は充実感たっぷりに言う。
「いやー、勉強はかどったわ」
「こっちは小説をいい所で何度か邪魔されたがな」
「ああ、ごめんごめん」
玲が手を蓮真に向けて上下にブラブラ振る。
「だからせめて高得点でも取ってくれ」
「ちょ、プレッシャーになるからやめて」
玲はちょっと間を置いた後、軽く返した。それから夕空を見上げた。
「でもまあ多分大丈夫かも」
言葉を付け足した玲の姿に頼もしさみたいな印象を見たのだが、理由はよくわからなかった。




