031. 無性にピーナッツが食いたくなった
休日の午前、蓮真は自分の部屋のベッドに寝転んで本を読んでいた。
先日の空き教室では別の用事に費やしてしまい、その分を取り戻すように読書を楽しんだ。
章の区切りまで読み進めたところで蓮真の顔のすぐ横に置いていたスマホが振動した。通話ボタンを押してスマホを耳に当てるとこの前電話番号を知ったクラスメイトの声が聞こえた。
『もしもし、五月雨君?』
「おう、五月雨だ。そっちは中田か」
『うん』
愛花は朗らかな声であり、姿は伺えないが楽しそうな様子は目に浮かんだ。
『ちょっと暇なもんでさ、話でもしようよ』
「ああ」
蓮真はベッドに寝転んでいる。
「それで、議題は何だ?」
『いや、議題ってそんな大仰な』
「ん、何か大事な話があって電話したんじゃないのか」
『違うから。そんな重く考えないで』
「じゃあ一体何の話すりゃいいんだ」
『うーん、何か面白いこと言って』
「鬼みたいな無茶振りすんな。鬼か貴様は」
『五月雨君ならきっとできるよ! ガンバ!』
「こんな雑にぶん投げられたらプロの芸人でも難しいわ」
『えーつまんない』
「それならお前こそ面白い話したらどうだ」
『無理に決まってんじゃん』
「話になんねぇ……」
力が抜けていくような感覚の中、蓮真は学校のあるイベントを思い出した。
「第一、もうじき中間テストだろ。暇なら勉強してもいいんじゃねーか」
来週の月曜にはもうテストが始まる。平年はもっと早いらしいが今年は特殊な事情でもあったのかやや遅い時期に実施するのだそうだ。
『えー、大丈夫だよ。今のところわかんない科目無いし』
「油断してるなお前」
『そういう五月雨君はどうなのさ』
「テスト範囲の勉強はとっくに」
『へー、ご苦労なことで』
愛花は平坦な声音になった。
『それにしても中学校に入って初のテストか。変かもしれないけどどんな感じなのか少しワクワクしてる』
「ほう、俺もだ」
『珍しく気が合ったね』
「そうか?」
『少なくとも私にとっては』
さっきより少し弾んだ調子で愛花は言った。
「まあ、テストは何とかなるんじゃないか」
『そうでしょ』
「俺の方はな」
『私の分も保証してよ』
「お前のテストの成績はお前の責任だろ」
『そりゃーね。じゃあまた』
「おお、じゃあな」
スマホの画面が通話の終わりを示したのを確認し、蓮真はまた読書を再開した。読んでいる本の中では愛花とは似ても似つかぬお淑やかな少女が登場していた。




