003. 100万ドルが欲しくなりまして
青蘭中学校という学校にて入学式から日数が経ち、新一年生の各クラスにおいても仲の良い者同士のグループが固まってきていた。
一年二組もその一つであり、そのクラスにいる中田愛花という少女は持ち前の明るい性格でどんどん女子達と打ち解けていった。小学校時代からの友人も何人か同じクラスになり、中学校での新生活は愛花にとって幸先良いものとなった。
そんなある日の放課後、愛花は宿題のプリントを忘れたことに気付き一緒に下校していた友達と途中で別れ学校に戻ってきた。
人気の無い廊下に部活の喧噪が窓の外から響く。愛花は早足で教室に戻ると一人の男子が悠然と席に座って本を読んでいた。
彼の名は五月雨蓮真、だったと思う。愛花とは別の小学校出身で隣の席にいる、大人しい雰囲気の男子だ。
何故こんな所で一人読書に耽っているのか。愛花は興味本位で蓮真に話しかけてみた。
「五月雨くん、ちょっといい」
「よくない」
「えっ」
「ちょっと隣でブレイクダンスの練習してもいい、てことならよくない」
「違うよ⁉ 話をしてもいいかなって意味だよ!」
「そうか。ならやっぱよくない」
「何で⁉」
「いや、理由は特にないけど」
「じゃいいじゃん! 少しは付き合ってよ」
つい大声を出してしまったが、愛花はとりあえず聞きたいことを聞いた。
「何で帰らずに本読んでるの」
「暇だから……って帰らずに?」
蓮真は周りを見渡した。
「ああ、もう放課後か。休み時間だと思ってた」
「帰りの挨拶までしたのに⁉」
「ヤン–ミ○ズ方程式と質量ギャップ問題について考えてて話を聞いてなかったぜ」
「ごめん、何を言ってるのかさっぱり」
愛花は額に手を当てた。目の前にいる男は会話をするのに体力の要る存在らしい。
そういえばクラスの中で蓮真が誰かと話している姿を見たことない気がする。他の男子達はとっくに数人で固まって各々談笑しているが、蓮真だけは教室の片隅の席で何かしら本を読んだり授業の予習(と思しきこと)をしているような印象だ。
友達少ないのかな、と思ったがそういうことに触れるのは悪いと考えを取り払った。
「お前が今何を考えているか当てようか」
「えっどうしたの急に」
愛花はどきっとする。
「やっぱタップダンスから上手くなった方がいいかな、だろ?」
「何が『だろ?』なの」
「阿波踊りの方かな」
「私の思考がダンス縛りになってるのはどういうこと」
愛花は疲れを感じ、蓮真に別れの挨拶を掛ける。
「私、そろそろ帰るね」
「ああ、それじゃ」
そう挨拶して愛花は教室を出た。
変わった人だけど上手くやっていけるといいなと愛花は学校を出る中考えていた。




