027. 立地場所も考えないと
一日の授業が終わり、蓮真が校舎の昇降口を出てすぐの所で朋美と顔を合わせた。
その姿は上は白色の半袖、下は菫色のハーフパンツ、すなわち体操服を着ており、露出した腕や足についた汗が白く光っていた。さっきまで一頻り走っていたのか呼吸の音がやや荒い。
「こんにちは先輩」
「やあ」
「少々訊きたいことがあるんですがよろしいですか」
「えっ何?」
蓮真がややかしこまって相談を持ちかけると、朋美は落ち着いた調子で返した。特に嫌がる様子にも見えずこちらが話すのを待っている姿を見て、やはり親切な先輩だと信頼した。
「実は将来パン屋を開きたいなと思ってるんですけど」
「ん?」
「どんな商品を置こうか検討しておりまして」
「えっと」
「とりあえず関数電卓とかいいなと思うんですがいかがでしょうか」
「ごめん、話についていけない」
朋美はひたすら困惑しているように見えた。ちょうど彼女の頬を流れ落ちていく汗が走った身体を冷やすのとは違う意味で出てきた気がする。気のせいか。
「何か変なこと言ってしまいましたか」
「あ、何というか唐突にパン屋とか話されて予想外だったなって」
「はあ」
「あと、関数電卓って何」
「これ置けば必要とする人が客として来てくれるかなと思いまして」
「いや、そういう意味じゃなくて……はあ」
朋美が深く息を吐くのを見て、蓮真は相談を止めることにした。将来の夢に関して相談するのは重すぎたのだろうかと反省する。暫くは自分一人で色々計画を練るか。
「すみません、お時間とらせてしまって」
「あ、別にいいよ。こっちも力になれなくて悪いね」
「いや、とんでもないです。ではまた」
蓮真は朋美に別れを告げ、学校の門へ向かって歩いていった。
春の鳥が遠くから鳴き、虫が目の前を飛んで横切る森の横手の道すがらでも蓮真の意識は将来開く店のことで満たされていた。
(後輩君のパン屋ねえ)
学校を出ていく蓮真の背中を眺めた朋美は、蓮真が開いたパン屋をつかまえて一体どんな奇抜な店になるのやらと想像した。




