025. いいじゃないマニアしかいなくても
放課後になった。
蓮真は空き教室へ入ると雑多に散らばっている椅子の一脚に座った。初めて足を踏み入れたときの埃っぽさは消え、今も人が出入りしている活き活きとした雰囲気をこの部屋から感じる。
当然ながら一年二組の教室と違って席が決まっているわけではないので、この教室の利用者は毎回気分に沿って座る椅子を選んでいる。
それから程なく深言も空き教室を入る。「どうも」「ああ」と、前回と変わらぬ簡素な挨拶を交わし彼女も適当な席に腰掛けた。
深言の座った場所は蓮真とは真正面や隣ではないが、それなりに近い位置取りだった。一人が本から顔を上げるともう一人の姿が視界に入るようになっている。
「ほう、今日はそれですか」
深言は蓮真が鞄から取り出した『フルーツパーラー林田』を見てそう述べた。
「これって有名かと思ってたんだが違うんかね」
「えーと、どうでしょう。知る人ぞ知るって感じかと」
「そうか」
日本人なら大抵は知っているレベルかと認識していた。しかし深言が言葉を慎重にしている所から察するに蓮真の思い違いだったようだ。
「でも、いきなりどうしたんですか」
「クラスの奴に話したら知らないって言われてな。ちょっと意見を聞きたかった」
「なるほど」
深言は自分の本を膝に乗せた。蓮真も手にあった本を隣の席に置く。
「知られてるかどうかはともかく、面白いことは確かですね」
「同感」
「この前の『ビー大』もですが、この作者の作品は優れているのが多いです」
「確かにな。あの本だと……」
そうして二人は自分の好きな作品について語り始めた。かねがね頭に貯め込んでいた好きな作品への想いが空気を一杯に詰められた風船のように口から勢いよく溢れ出る。溢れた言葉を目の前にいる相手がしっかり受け取め、またしっかりと応えてくれる。
「動力炉を糸こんにゃくで無力化するシーンはすごく好きでしたね」
「ああ、それに至る過程も見事だったよ」
運のいいことに、二人が共通して好きなシーンは多かった。好きな理由もおおよそ一致していた。重なった感想がシナジーして作品をより深い層へ、さらに深い層へどんどん掘り下げていった。
そんな風に盛り上がっていたらいつの間にか下校を知らせるメロディが流れてきた。
「あら、もうこんな時間ですか」
突然のメロディを聞いて真顔になりながら呟く深言。時間の進みがいつもより速く感じたが、それは彼女も同じようである。
「しゃーない、読書はまた今後にすっか」
蓮真がそう切り上げると深言もフッと笑いながら「そうですね」と答えた。




