024. 日本人が富士山知らないようなもんじゃないか
休み時間、蓮真が幾つもの定規でトランプタワーみたいなものを組み上げていると
「ね、五月雨君」
隣の席の愛花が座ったまま体を横に向けて声を掛けてきた。左の腕は肘から先を机に乗せており、上半身が蓮真のいる正面へとややのめっていた。
「どうした」
「ちょっと聞きたいんだけど、最近ハマってることってある?」
「ん」
蓮真は顔を少し下に傾けた。振り返るとここの所空き教室にいる機会が多いように思う。
「最近だと静かな場所で本を読むのが多いな」
「へえ、どんな本?」
「今読んでるのは『フルーツパーラー林田』」
「何それ芸人の名前?」
「本のタイトルだよ」
「ごめん聞いたことない」
「え⁉」
蓮真は思わず自分の机に腕をぶつける。その衝撃で積みかけの定規タワーは失敗した達磨落としよろしくあっさり崩れてしまった。
「いや、そんなびっくりされても」
「お前これすっごい有名だぞ」
「SNSで話題になったとか?」
「いや、テレビでもネットでも全然話題にはなってないんだが」
「それで何で有名なんて言えるの」
愛花は険のある態度になっていった。虫の居所が悪いのかもしれない。
「はあ……、でもその作品って面白いってこと?」
「ああ、知り合いに勧められて読んだが結構よかったぞ」
「五月雨君の知り合いかあ」
愛花の顔は蓮真の方を向いているのだが、その視線からは蓮真ではない他の誰かを小窓から覗こうとするのに似た印象を受けた。
「どうかしたか」
「え、いや別に。それなら私も読んでみようかな」
「この学校の図書室にあるからそっから借りた方がいいな」
「そうなんだ、教えてくれてありがと」
「ちなみに今俺が借りてる」
「今言ったお礼が無駄になった気分だよ」
愛花は机に肘を乗せ、頬に手を当てながら
「じゃあ、その本を図書室に返したら私に教えてよ」
と提案してきた。
「了解」
蓮真がOKすると愛花の目が細くなっているように見えた。頬杖で顔つきが歪んでいるからだろうか。




