022. 何かサバンナに行きたくなってきた
それは蓮真が朝早くに登校したときのこと。
蓮真が校庭を眺めていると一人体操服を身に着けた女子が疾走しているのが見えた。
風を切るその姿はサバンナを自由に駆ける羚羊を彷彿させる。蓮真は何となく女子の姿を目で追っていた。
そうしていると女子が校庭から校舎の方にやって来た。一休みするのだろう。
そして蓮真はその女子が志田朋美であることに気付いた。
まっすぐに伸びた黒い髪をまとめた長いポニーテール。脚、腕、腹を絞った細い体型はまさしくアスリートのそれだ。
「おはようございます、志田先輩」
「あっ後輩君、おはよう」
挨拶を受けて蓮真の方を向いた朋美は朗らかに挨拶を返した。
その後蓮真の近く、体育館の側に腰を下ろした。
「朝早いんですね」
「毎日ってわけじゃないよ。それに君も早く来てるじゃん」
「今日は偶々ですね。何か目が早く覚めちゃって」
「そっか」
「それにしても、先輩の走る姿かっこよかったです」
朋美がはっと顔を上げた。
「そ、そうかな」
「はい。先日も見てましたけど、やっぱりいいっす」
「あはは……」
朋美は頬を人差し指で掻きつつ、蓮真の言葉に引っかかった。
「ん、『先日も』? 前走ってる姿も見たことあるの?」
「はい」
「え、いつ?」
「えーと、先輩と最後に話した日の放課後だったと思います」
「え、あのとき? でもあのとき君の姿は……」
朋美は言いかけた言葉を止めて、再度口を開いた。
「あのとき君が見てるとは思わなかったよ」
「そうでしたか。まあ自分のことはいいでしょ」
「ちょっと気になるな。あのときも今日と同じように見てたの?」
「いや、あのときは校舎内から望遠鏡で」
「えっ何でそんな」
「他に部活している奴らの邪魔になるといけないかなと思ったので」
「はあ」
「でも、肉眼の方が雰囲気がより伝わりますね」
「そ、そっか」
そう言って朋美は俯いてしまった。どんな表情をしているのかは窺えない。




