020. この章を読み終わったら教室に戻ろう
蓮真は空き教室で読書するのが習慣になっていた。
家で読んでもいいのだが、空き教室の物静かな雰囲気が気に入っていた。
昼休み、大粒の雨が窓を打ち付ける中で本を読んでいたら珍しい客が教室に入ってきた。
「アンタか……」
松田玲は蓮真を見るなり呟いた。以前会ったときより元気が無いように見えた。
玲は教室の中にある蓮真から離れた席に向かうとそこに腰掛けた。
「お前も読書か?」
「え? あ~、ちょっと休みに来ただけ」
「そうか」
精がない声で返事した玲は暫く沈黙を保っていたが、やがて蓮真に向き直った。
「ちょっと話聞いてくれない?」
「いいぞ」
「本を読んだままって……まあいいか」
玲の姿に鬱々たる気配があった。
「今日クラスの友達と話しててさ、楽しく盛り上がってたんだけど」
「……」
「その子の言ったことにカチンときちゃって」
「……」
「つい言い返したら喧嘩みたいになっちゃって」
「……」
「教室にいるのが気まずいしとりあえずここへ休みに来た」
「……」
「私も今考えたら別にそんな怒るようなことでもなかったじゃんとか」
「……」
「もっとマシな言い方あったよなーって思ってるんだけど」
「……」
「あのときは感情が抑えられなかったっつーか」
「……」
「聞いてる?」
蓮真は玲の話している間ずっと本に視線を向けていた。
「ああ、ちゃんと聞き流してる」
「聞いてねーじゃねーか」
玲から先ほど感じた憂いが薄れ、「ダメだこいつ」と言わんばかりの表情に変わっていった。
「冗談は置いといて」
「アンタが言うとわかりづらいから」
「女の愚痴は黙って聞けと教わったんだが、お気に召さなかったか?」
「ふ、何それ」
玲はついつい吹き出した。愚痴といえば愚痴かもしれないが、相槌を打つとか慰めぐらいはあってもいいのではないか。
でも自分のことを大して知らない奴にわかったつもりで同調されても腹立つし、ましてや同い年に説教じみたアドバイスとかされたらそいつを殴りたくなる。
そう思うと蓮真のようにこちらの話を一方的に聞いてくれる存在が今はありがたかった。
ついでに少しでもいいから話をちゃんと聞いてるポーズを見せてくれると文句無いのだが。
そうこうしている内にそろそろ昼休みが終わる時間になっていた。
「じゃ、もう行くわ」
「おう」
空き教室に残る蓮真に簡素な挨拶を交わして玲は自分の教室に向かった。
友達にはとにかく後で謝ろうと玲は思った。
あと、蓮真も自分の教室に戻らなきゃいけないんじゃないのかと思った。




